社労士試験の独学|健康保険法|訪問看護療養費

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まえがき

この記事では、健康保険法における訪問看護療養費について解説しています。

社会保険労務士試験の独学、労務管理担当者の勉強などに役立てれば嬉しいです。

記事中の略語はそれぞれ次の意味で使用しています。

  • 法 ⇒ 健康保険法
  • 令 ⇒ 健康保険法施行令
  • 則 ⇒ 健康保険法施行規則
  • 介護法 ⇒ 介護保険法
  • 介護則 ⇒ 介護保険法施行規則
  • 保険者 ⇒ 協会けんぽ及び各健康保険組合

当記事は条文等の趣旨に反するような極端な意訳には注意しております。ただし、厳密な表現と異なる部分もございます。詳しくは免責事項をご確認ください。

訪問看護療養費

この記事で解説する「指定訪問看護」は「療養の給付」に含まれません(法88条12項)

「療養の給付」は、こちらの記事で解説しています。


概要

看護と介護の概念図

具体的な定義は順を追って解説しますので、まずは次のように分類してみてください。

  • 介護とは、要介護者に必要な日常生活上の世話です(福祉の仕事)
  • 訪問介護とは、居宅において行われる介護です。
  • 看護とは、療養上の世話又は必要な診療の補助です(医療の仕事)
  • 訪問看護とは、居宅において行われる看護です。
  • 訪問看護(健康保険)とは、健康保険法に基づいて行われる訪問看護です。
  • 訪問看護(介護保険)とは、介護保険法に基づいて行われる訪問看護です。

ポイントとしては、介護は「介護保険」のはなしですが、看護は「健康保険」「介護保険」いずれも対象となります。

この記事で解説する「訪問看護療養費」は、訪問看護(健康保険)を受けた場合における保険給付です。

一方、訪問看護(介護保険)を受けた場合は、健康保険法ではなく、介護保険法に基づく保険給付の対象です。

おおまかなイメージとしては、次の者に対して健康保険(医療保険)に基づく訪問看護が行われます。

  • 介護保険が適用されない者(要介護者又は要支援者でなかったり、そもそも40歳未満の者)
  • 介護保険が適用されても医療保険も適用できる者(末期の悪性腫瘍の者、主治医から特別な指示書が発せられる者など)

「いま、何のはなし?」となった際は、上記の分類を参考にしてください。

「療養の給付」と「訪問看護療養費」の比較

療養の給付と訪問看護療養費

次の①~③は、健康保険の範囲内での分類です。

  • 指定訪問看護事業者から行われる「居宅における看護」は「指定訪問看護」として行われ、その費用には訪問看護療養費が支給されます。
  • 保険医療機関等から行われる「居宅における看護」は、療養の給付(法63条1項4号)として行われます。
  • 保険医療機関等から行われる「入院に伴う看護」は、療養の給付(法63条1項5号)として行われます。

健康保険の枠組みの中で行われる「居宅における看護」は、指定訪問看護事業者から行われるもの(訪問看護療養費の支給)と、保険医療機関等から行われるもの(療養の給付)に分けられます。

この記事は、①についての解説です。


訪問看護、訪問介護

訪問看護の概念図

健康保険法と介護保険法を比較しながら、「訪問看護」と「訪問介護」の定義を解説します。

訪問看護(健康保険)

健康保険法において「訪問看護」とは、疾病又は負傷により、居宅において継続して療養を受ける状態にある者(*1)に対し、その者の居宅において看護師等(*2)が行う療養上の世話又は必要な診療の補助(*3)をいいます(法88条1項)

(*1)主治の医師がその治療の必要の程度につき、「病状が安定し、又はこれに準ずる状態にあり、かつ、居宅において看護師等(*2)が行う療養上の世話及び必要な診療の補助を要する」と認めたものに限ります(則67条)

(*2)看護師、保健師、助産師、准看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士をいいます(則68条)

(*3)保険医療機関等、介護老人保健施設、介護医療院によるものを除きます。

以降、上記(*1)の基準に適合している者を「訪問看護を要すると主治医が認めた者」と表記しています。

保険医療機関等の範囲は、こちらで解説しています。

介護老人保健施設、介護医療院については、下のタブをご参照ください。

以降、補足的な内容はタブに格納していますので、必要に応じて開閉してください。

  • 「介護老人保健施設」とは、要介護者であって、主としてその心身の機能の維持回復を図り、居宅における生活を営むことができるようにするための支援が必要である者に対し、施設サービス計画に基づいて、看護、医学的管理の下における介護及び機能訓練その他必要な医療並びに日常生活上の世話を行うことを目的とする施設として、都道府県知事の許可を受けたものをいう(介護法8条28項)
  • 「介護医療院」とは、要介護者であって、主として長期にわたり療養が必要である者に対し、施設サービス計画に基づいて、療養上の管理、看護、医学的管理の下における介護及び機能訓練その他必要な医療並びに日常生活上の世話を行うことを目的とする施設として、都道府県知事の許可を受けたものをいう(介護法8条29項)

ちなみに、①と二文字違いの「介護老人福祉施設」とは、老人福祉法20条の5に規定する特別養護老人ホーム(入所定員が30人以上に限る)であって、当該特別養護老人ホームに入所する要介護者に対し、施設サービス計画に基づいて、入浴、排せつ、食事等の介護その他の日常生活上の世話、機能訓練、健康管理及び療養上の世話を行うことを目的とする施設をいいます(介護法8条27項)

また、「施設サービス計画」とは、介護老人福祉施設、介護老人保健施設又は介護医療院に入所している要介護者について、これらの施設が提供するサービスの内容、これを担当する者その他厚生労働省令で定める事項を定めた計画をいいます(介護法8条26項)


訪問看護(介護保険)

介護保険法において「訪問看護」とは、居宅要介護者(*4)について、その者の居宅において看護師その他厚生労働省令で定める者(*5)により行われる療養上の世話又は必要な診療の補助をいう(介護法8条4項)

(*4)居宅において介護を受ける要介護者をいいます(介護法8条2項)。なお、主治の医師がその治療の必要の程度につき、「病状が安定期にあり、居宅において、心身の機能の維持回復及び日常生活上の自立を図るために、診療に基づき実施される計画的な医学的管理の下における理学療法、作業療法その他必要なリハビリテーションを要する」と認めたものに限られます(介護則8条)

(*5)看護師、保健師、准看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士をいいます(介護則7条)

訪問介護

介護保険法において「訪問介護」とは、居宅要介護者について、その者の居宅において介護福祉士等(*6)により行われる入浴、排せつ、食事等の介護、調理、洗濯、掃除等の家事、生活等に関する相談及び助言その他の居宅要介護者に必要な日常生活上の世話(定期巡回・随時対応型訪問介護看護又は夜間対応型訪問介護に該当するものを除く)をいいます(介護法8条2項、介護則5条)

(*6)介護福祉士の他には、介護保険法施行令3条、平成30年3月30日厚労告183号、平成18年9月29日厚労告538号にて規定されています(膨大になるため省略します)


以降は、健康保険法における訪問看護の解説です。訪問看護(健康保険)は、単に「訪問看護」と表記しています。

指定訪問看護

指定訪問看護の概念図

(実社会における用語の定義は、その都度ご確認ください)

訪問看護を行う事業を「訪問看護事業」といいます。また、訪問看護事業を行う事業所を「訪問看護事業所」といいます(法89条1項)

  • 指定訪問看護事業者の指定は、訪問看護事業所ごとに申請し、厚生労働大臣が行います(法88条1項)
  • 指定訪問看護事業者の当該指定に係る訪問看護事業所を「訪問看護ステーション」といいます。(則69条)
  • 指定訪問看護」とは、指定訪問看護事業者が当該指定に係る訪問看護事業を行う事業所(上記②)により行われる「訪問看護」をいいます(法88条1項)

①指定を受けた事業者から、②指定に係る事業所を通して行われる訪問看護が、③指定訪問看護です。

これから解説する「訪問看護療養費」は、被保険者が指定訪問看護を受けたときの保険給付です。

指定訪問看護を受けようとする者は、自己の選定する指定訪問看護事業者から、電子資格確認等により、被保険者であることの確認を受け、指定訪問看護を受けるものとされています(法88条3項)

このタブ内は、介護保険法に基づいて提供される訪問看護に関係するサービスと、当該サービスを受けたときに支給される介護保険法による保険給付の定義です。

指定居宅サービス(介護給付)

市町村は、要介護認定を受けた被保険者のうち居宅において介護を受けるもの(居宅要介護被保険者)が、都道府県知事が指定する者(指定居宅サービス事業者)から当該指定に係る居宅サービス事業を行う事業所により行われる居宅サービス(指定居宅サービス)を受けたときは、居宅要介護被保険者に対し、居宅介護サービス費を支給する(介護法41条1項)

「居宅サービス」とは、訪問介護、訪問入浴介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅療養管理指導、通所介護、通所リハビリテーション、短期入所生活介護、短期入所療養介護、特定施設入居者生活介護、福祉用具貸与及び特定福祉用具販売をいい、「居宅サービス事業」とは、居宅サービスを行う事業をいう(介護法8条1項)

地域密着型サービス(介護給付)

市町村は、要介護被保険者が、当該市町村の長が指定する者(指定地域密着型サービス事業者)から当該指定に係る地域密着型サービス事業を行う事業所により行われる地域密着型サービス(指定地域密着型サービス)を受けたときは、当該要介護被保険者に対し、当該指定地域密着型サービスに要した費用について、地域密着型介護サービス費を支給する(介護法42条の2第1項)

「地域密着型サービス」とは、定期巡回・随時対応型訪問介護看護、夜間対応型訪問介護、地域密着型通所介護、認知症対応型通所介護、小規模多機能型居宅介護、認知症対応型共同生活介護、地域密着型特定施設入居者生活介護、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護及び複合型サービスをいい、「特定地域密着型サービス」とは、定期巡回・随時対応型訪問介護看護、夜間対応型訪問介護、地域密着型通所介護、認知症対応型通所介護、小規模多機能型居宅介護及び複合型サービスをいい、「地域密着型サービス事業」とは、地域密着型サービスを行う事業をいう(介護法8条14項)

「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」とは、次の各号のいずれかに該当するものをいう(介護法8条15項)

一 居宅要介護者について、定期的な巡回訪問により、又は随時通報を受け、その者の居宅において、介護福祉士等により行われる入浴、排せつ、食事等の介護その他の日常生活上の世話であって、厚生労働省令で定めるものを行うとともに、看護師その他厚生労働省令で定める者により行われる療養上の世話又は必要な診療の補助を行うこと。ただし、療養上の世話又は必要な診療の補助にあっては、主治の医師がその治療の必要の程度につき厚生労働省令で定める基準に適合していると認めた居宅要介護者についてのものに限る。

二 (省略)

指定介護予防サービス(予防給付)

市町村は、要支援認定を受けた被保険者のうち居宅において支援を受けるもの(居宅要支援被保険者)が、都道府県知事が指定する者(指定介護予防サービス事業者)から当該指定に係る介護予防サービス事業を行う事業所により行われる介護予防サービス(指定介護予防サービス)を受けたときは、居宅要支援被保険者に対し、介護予防サービス費を支給する(介護法53条1項)

「介護予防サービス」とは、介護予防訪問入浴介護、介護予防訪問看護、介護予防訪問リハビリテーション、介護予防居宅療養管理指導、介護予防通所リハビリテーション、介護予防短期入所生活介護、介護予防短期入所療養介護、介護予防特定施設入居者生活介護、介護予防福祉用具貸与及び特定介護予防福祉用具販売をいい、「介護予防サービス事業」とは、介護予防サービスを行う事業をいう(介護法8条の2第1項)

「介護予防訪問看護」とは、居宅要支援者(*a)について、その者の居宅において、その介護予防を目的として、看護師その他厚生労働省令で定める者(*b)により、厚生労働省令で定める期間(*c)にわたり行われる療養上の世話又は必要な診療の補助をいう(介護法8条の2第3項)

(*a)居宅において支援を受ける要支援者をいいます(介護法8条の2第2項)。なお、主治の医師がその治療の必要の程度につき、「病状が安定期にあり、居宅において看護師その他厚生労働省令で定める者(*b)が行う療養上の世話又は必要な診療の補助を要する」と認めたものに限られます(介護則22条の5)

(*b)看護師の他に、保健師、准看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が規定されています(介護則22条の6)

(*c)居宅要支援者ごとに定める介護予防サービス計画において定めた期間です(介護則22条の2)


指定訪問看護事業者の「みなし指定」は後述します。


訪問看護療養費(保険給付)

訪問看護療養費|主治医の指示書
  • 被保険者が、指定訪問看護事業者から指定訪問看護を受けたときは、その指定訪問看護に要した費用について、訪問看護療養費を支給する(法88条1項)
  • 訪問看護療養費は、厚生労働省令(*7)で定めるところにより、保険者が必要と認める場合に限り、支給する(法88条2項)

(*7)保険者は、被保険者が「疾病又は負傷により居宅において継続して療養を受ける状態にあり、訪問看護を要すると主治医が認めた者」であると認められる場合に訪問看護療養費を支給する(則69条本文)。ただし、他の訪問看護ステーションから現に指定訪問看護を受けるときは、この(則69条本文の取扱い)限りでない(則69条ただし書、平成20年3月5日厚労告67号)

なお、指定訪問看護事業者は、指定訪問看護の提供の開始に際し、主治医による指示を文書で受ける必要があります(平成12年3月31日厚生省令80号第16条)

(主治医による指示書は訪問看護指示料(診療報酬点数表C007、I012-2)として評価され、その費用の一部負担金については被保険者が保険医療機関へ支払います)

保険給付の額

訪問看護療養|保険給付

訪問看護療養費の額は、次の①から②を控除した額です(法88条4項)

  • 指定訪問看護について、指定訪問看護に要する平均的な費用の額を勘案して厚生労働大臣が定めるところにより算定した費用の額
  • ①の額に一部負担金の割合を乗じて得た額(*8)

(*8)療養の給付に係る一部負担金について、減額、免除、徴収の猶予の措置が採られるべきときは、当該措置が採られたものとした場合の額

簡単にいうと、①が提供される指定訪問看護の費用、②が被保険者の自己負担額、①と②の差額が保険給付の額です。

①については、訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法(平成20年3月5日厚労告67号)が定められています。

以降解説の都合上、①の額を単に「指定訪問看護に要する費用の額」と表記しています。

また、②の額は厳密には「一部負担金」と異なりますが、「指定訪問看護に係る一部負担金」と表記しています。

諮問

厚生労働大臣は、指定訪問看護に要する費用の額についての定めようとするときは、中央社会保険医療協議会に諮問することになっています(法88条5項)

現物給付

現物給付の概念図(指定訪問看護)
一部負担金の割合が3割のケース
  • 被保険者が指定訪問看護事業者から指定訪問看護を受けたときは、保険者は、その被保険者が当該指定訪問看護事業者に支払うべき指定訪問看護に要した費用について、訪問看護療養費として被保険者に対し支給すべき額の限度において、被保険者に代わり、当該指定訪問看護事業者に支払うことができる(法88条6項)
  • ①による支払があったときは、被保険者に対し訪問看護療養費の支給があったものとみなす(法88条7項)

①は「できる」旨の規定ですが、被保険者が資格の確認を受けて指定訪問看護を受けた場合は、①の取扱いにより支払うことになっています(則71条)

領収証

  • 指定訪問看護事業者は、指定訪問看護に要した費用につき、その支払を受ける際、当該支払をした被保険者に対し、領収証を交付しなければならない(法88条9項)
  • 上記の領収証には、基本利用料及びその他の利用料について、個別の費用ごとに区分して記載しなければならない(則72条)

「基本利用料」とは、指定訪問看護に要する費用の額から訪問看護療養費の額を差し引いた額(つまり指定訪問看護に係る一部負担金)に相当します(平成12年3月31日厚生省令80号第13条1項)

「その他の利用料」とは、簡単にいうと「健康保険の適用外」となる利用料(全額自己負担の部分)です。具体的には、次の取扱いとなります。

  • 利用者(指定訪問看護を受けた者)の選定に基づいて「指定訪問看護に要する平均的な時間を超える指定訪問看護」又は「営業日又は営業時間の範囲外における指定訪問看護」が提供された場合に、それらの指定訪問看護に要する費用の範囲内において、指定訪問看護に要する費用の額(厚生労働大臣の定めにより算定した費用の額)を超える額を「その他の利用料」として徴収できます(前掲省令80号第13条2項、平成12年3月31日厚生省告示169号)
  • 指定訪問看護の提供に係る交通費、おむつ代等に要する費用については、その費用(つまり実費)の範囲内の額を「その他の利用料」として徴収できます(平成12年3月31日厚生省令80号第13条2項)
  • 指定訪問看護の提供と連続して行われた在宅での死後の処置については、当該サービスに要する実費相当額を徴収できます(令和6年3月5日保発0305第12号)

参考|指定訪問看護に要する費用の額

訪問看護療養|費用額

指定訪問看護に要する費用の額については、次の①②が定められています(平成20年3月5日厚労告67号、令和6年3月5日保発0305第12号)

  • 指定訪問看護の費用の額は、一部の例外を除き、「訪問看護基本療養費」又は「精神科訪問看護基本療養費」に、他の区分(訪問看護管理療養費、訪問看護情報提供療養費、訪問看護ターミナルケア療養費、訪問看護ベースアップ評価料)により算定される額を加えた額とする。
  • ①の額は、別に厚生労働大臣が定める場合を除き、要介護被保険者又は居宅要支援被保険者(要介護被保険者等)については算定しない。

①は「指定訪問看護」の費用ですので、健康保険法に基づく訪問看護に要した費用の算定方法です。

①の算定方法としては、例えば、「訪問看護基本療養費については、利用者1人につき、精神科訪問看護基本療養費を算定する日と合わせて週3日を限度(末期の悪性腫瘍等の利用者に対する場合を除く)として算定する」などの基準が定められています。

①における「一部の例外(区分番号02の注7のただし書)」などの算定基準の詳細は、下記リンクをご参照ください。

(社労士試験の勉強としては参考まで)

参考|厚生労働省ホームページ(外部サイトへのリンク)|訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法

要介護者被保険者等について

訪問看護療養費の対象|健保と介護

直前の②の定めがあるため、原則論としては、要介護被保険者等(介護保険法の保険給付が適用される者)に対しては指定訪問看護は行われません。

ただし、次の場合には、要介護被保険者等についても直前の①の額を算定できます(平成18年3月6日厚労告103号)

  • 特別訪問看護指示書(患者の急性増悪等により一時的に頻回の訪問看護が必要な場合に、主治医から訪問看護ステーションに交付される指示書)に係る指定訪問看護を行う場合
  • 「特掲診療料の施設基準等」の別表第七に掲げる疾病等(末期の悪性腫瘍、パーキンソン病関連疾患、人工呼吸器を使用している状態など、20に分類された疾病等)の者に対する指定訪問看護を行う場合
  • 精神科訪問看護基本療養費(直前の①を参照)が算定される指定訪問看護を行う場合

つまり、上記いずれかに該当すると、要介護被保険者等に対する訪問看護であっても、健康保険法に基づく保険給付(訪問看護療養費)を支給できます。

なお、40歳未満の者や、40歳以上でも要介護被保険者等に該当しない者も、訪問看護療養費の対象です。


指定訪問看護事業者

区分厚労大臣の指定後指定前
事業者指定訪問看護事業者訪問看護事業を行う者
事業所訪問看護ステーション訪問看護事業所
居宅で行われる看護指定訪問看護訪問看護
健康保険の保険給付訪問看護療養費

ここからは、訪問看護療養費(保険給付)から離れて、指定訪問看護事業者の「指定」について解説します。


全体像

訪問看護事業者の指定

厚生労働大臣による指定

指定訪問看護事業者の指定は、訪問看護事業を行う者の申請により、訪問看護事業所ごとに行います(法89条1項)

上記の指定を受けるためには、則74条で定める事項(申請者の名称、訪問看護ステーションとなる事業所の名称等)を記載した申請書及び書類を、訪問看護事業を行う事業所の所在地を管轄する地方厚生局長等(地方厚生局長又は地方厚生支局長)に提出する必要があります(則74条)

実際問題としては、一定の要件(勤務体制や職員管理が一体的である等)を満たす場合には、出張所などの従たる事業所も当該訪問看護事業所に含めて指定できる取扱いがとられています(令和6年3月5日保発0305第13号)

また、指定訪問看護事業者の指定の権限は、後述する指定の取消しの権限を含めて、地方厚生局長等に委任されています(法205条、則159条)

指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準

  • 指定訪問看護事業者は、当該指定に係る訪問看護事業所ごとに、厚生労働省令で定める基準に従い厚生労働省令で定める員数の看護師その他の従業者を有しなければならない(法92条1項)
  • ①に規定するもののほか、指定訪問看護の事業の運営に関する基準は、厚生労働大臣が定める(法92条2項)
  • 厚生労働大臣は、②に規定する指定訪問看護の事業の運営に関する基準(指定訪問看護の取扱いに関する部分に限る)を定めようとするときは、中央社会保険医療協議会に諮問するものとする(法92条3項)

上記①及び②に基づき、指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準(平成12年3月31日厚生省令80号)が定められていて、人員・設備・運営に関する基準が設けられています(詳細は次の外部リンクをご参照ください)

以降、上記の基準を「指定基準省令」と表記しています。

参考|厚生労働省ホームページ(外部サイトへのリンク|指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準

ちなみに、介護保険法に基づく指定については「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年3月31日厚生省令37号)」が定められており、当該基準をベースに各都道府県や市町村の条例で定めることになっています(介護法74条、78条の4、81条)

掲示

指定訪問看護事業者には、次の①及び②が義務付けられています(則75条)

  • 訪問看護ステーションの見やすい場所に、訪問看護ステーションである旨を掲示する
  • 原則として、①の訪問看護ステーションである旨をウェブサイトに掲載する

繰り返しになりますが、訪問看護ステーションとは、指定訪問看護事業者が当該指定に係る訪問看護事業を行う事業所をいいます(則69条)

変更の届出等

指定訪問看護事業者は、次のいずれかに該当する場合は、10日以内にその旨を厚生労働大臣(実際の届出は管轄の地方厚生局長等)に届け出る必要があります(法93条、則78条)

  • 訪問看護ステーションの名称及び所在地その他厚生労働省令(則77条)で定める事項に変更があったとき
  • 指定訪問看護の事業を廃止し、休止し、又は再開したとき

法91条による指導

指定訪問看護事業者及び訪問看護ステーションの看護師その他の従業者は、指定訪問看護に関し、厚生労働大臣の指導(*9)を受けなければなりません(法91条)

(*9)講習会の実施(集団指導)、関係書類を閲覧したうえでの個別面接など(個別指導)の形態があります(令和7年4月3日保発0403第1号)

法94条1項による監査

厚生労働大臣は、訪問看護療養費の支給に関して必要があると認めるときは、次の①~③を行うことができます(法94条1項)

  • 報告・提出命令
    指定訪問看護事業者又は指定訪問看護事業者であった者等に対し、報告若しくは帳簿書類の提出若しくは提示を命じること。
  • 出頭要求
    指定訪問看護事業者又は訪問看護ステーションの看護師その他の従業者(指定訪問看護事業者であった者等を含む)に対し、出頭を求めること。
  • 質問・検査
    当該職員に関係者に対して質問させ、又は訪問看護ステーションについて帳簿書類その他の物件を検査させること。

「指定訪問看護事業者であった者等」とは、指定訪問看護事業者であった者と、その訪問看護ステーションの看護師その他の従業者であった者をいいます。


指定の欠格事由

欠格事由

次のいずれかに該当するときは、指定訪問看護事業者の指定はされません(法89条4項)

  • 申請者が地方公共団体、医療法人、社会福祉法人その他厚生労働大臣が定める者(平成4年2月29日厚生省告示32号にて、国、日本赤十字社、健康保険組合等が定められています)でないとき。
  • 当該申請に係る訪問看護事業所の看護師その他の従業者の知識及び技能並びに人員が、指定基準省令で定める基準及び員数を満たしていないとき。
  • 申請者が、指定基準省令に従って適正な指定訪問看護事業の運営をすることができないと認められるとき。
  • 申請者が、健康保険法の規定により指定訪問看護事業者の指定を取り消され、その取消しの日から5年を経過しない者であるとき。
  • 申請者が、健康保険法その他国民の保健医療に関する法律の規定により罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなるまでの者であるとき。
  • 申請者が、拘禁刑以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなるまでの者であるとき。
  • 申請者が、社会保険料について、当該申請をした日の前日までに、社会保険各法又は地方税法の規定に基づく滞納処分を受け、かつ、当該処分を受けた日から正当な理由なく3か月以上の期間にわたり、当該処分を受けた日以降に納期限の到来した社会保険料の全てを引き続き滞納している者であるとき。
  • ①~⑦のほか、申請者が、指定訪問看護事業者として著しく不適当と認められる者であるとき。

⑤における「その他国民の保健医療に関する法律」としては、国民健康保険法、医療法等の14の法律(詳細は次のタブを参照)が定められています(令33条の3第1項)

  • 船員保険法
  • 医師法
  • 歯科医師法
  • 保健師助産師看護師法
  • 医療法
  • 私立学校教職員共済法
  • 国家公務員共済組合法
  • 国民健康保険法
  • 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
  • 薬剤師法
  • 地方公務員等共済組合法
  • 高齢者の医療の確保に関する法律
  • 再生医療等の安全性の確保等に関する法律
  • 臨床研究法

みなし指定

指定訪問看護事業者のみなし指定

「指定訪問看護事業者」以外の訪問看護事業を行う者について、介護保険法に基づく次のいずれかの指定があったときは、その指定の際、当該事業を行う者について、指定訪問看護事業者の指定があったものとみなします(法89条2項本文)

ただし、当該事業を行う者が別段(指定訪問看護事業を行わない旨)の申出をしたときは、上記みなし措置(みなし指定)の効力は生じません(法89条2項ただし書、則76条)

  • 指定居宅サービス事業者(*10)の指定(介護法41条1項本文による指定)
  • 指定地域密着型サービス事業者(*10)の指定(介護法42条の2第1項本文による指定)
  • 指定介護予防サービス事業者(*10)の指定(介護法53条1項本文による指定)

(*10)訪問看護事業を行う者のうち、指定基準省令2条(看護師等の員数)及び3条(管理者の基準)を満たすものに限ります(則75条の2)

指定居宅サービス、指定地域密着型サービス、指定介護予防サービスの定義は、前述のタブ内をご参照ください。

趣旨としては、みなし指定を受けた場合は、健康保険法に基づく「指定訪問看護事業者の指定」も受けたとみなすため、介護保険の訪問看護のみならず健康保険に基づく指定訪問看護も行えます。ただし、申出書を提出して、介護保険法による指定のみを受ける選択も可能です。

(みなし指定を受ける場合でも、別途必要な届出もあります)

ちなみに、介護保険法に基づく事業者の指定(公募による指定を除く)には「6年」の有効期間が設けられているため、介護保険法に基づく指定には更新が存在します(介護法70条の2、78条の12、115条の11)

一方、指定訪問看護事業者の指定(健康保険法に基づく指定)には有効期間はありません(指定の取消しはあり得ます)

みなし指定の効力への影響

次の指定についての介護保険法に基づく指定の失効、取消、効力の停止は、「みなし指定の効力」に影響を及ぼしません(法89条3項)

  • 指定居宅サービス事業者の指定
  • 指定地域密着型サービス事業者の指定
  • 指定介護予防サービス事業者の指定

(介護保険法における指定の失効等の根拠規定は省略しています)


指定の取消し

指定の取消し

厚生労働大臣は、次の①~⑩のいずれかに該当する場合においては、指定訪問看護事業者の指定を取り消すことができます(法95条)

  • 指定訪問看護事業者が、当該指定に係る訪問看護事業所の看護師その他の従業者について、指定基準省令で定める基準又は員数を満たせなくなったとき。
  • 指定訪問看護事業者が、指定基準省令に従って適正な指定訪問看護事業の運営をすることができなくなったとき。
  • 訪問看護療養費の支払に関する請求について不正があったとき。
  • 指定訪問看護事業者が、法94条1項により報告若しくは帳簿書類の提出若しくは提示を命ぜられてこれに従わず、又は虚偽の報告をしたとき。
  • 指定訪問看護事業者又は当該指定に係る訪問看護事業所の看護師その他の従業者が、法94条1項により出頭を求められてこれに応ぜず、同項の規定による質問に対して答弁せず、若しくは虚偽の答弁をし、又は同項の規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避したとき(当該指定に係る訪問看護事業所の看護師その他の従業者がその行為をした場合において、その行為を防止するため、当該指定訪問看護事業者が相当の注意及び監督を尽くしたときを除く)
  • 健康保険法以外の医療保険各法による被保険者若しくは被扶養者の指定訪問看護又は高齢者の医療の確保に関する法律による被保険者の指定訪問看護に関し、上記②から⑤までのいずれかに相当する事由があったとき。
  • 指定訪問看護事業者が、不正の手段により指定訪問看護事業者の指定を受けたとき。
  • 指定訪問看護事業者が、健康保険法その他国民の保健医療に関する法律の規定により罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなるまでの者に該当するに至ったとき。
  • 指定訪問看護事業者が、拘禁刑以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなるまでの者に該当するに至ったとき。
  • ①~⑨のほか、指定訪問看護事業者が、健康保険法その他国民の保健医療に関する法律又はこれらの法律に基づく命令若しくは処分に違反したとき。

ちなみに、指定訪問看護業者は、訪問看護ステーションごとに、当該指定訪問看護ステーションの看護師等によって指定訪問看護を提供しなければなりません(指定基準省令22条2項)

そのため、指定訪問看護の事業を第三者に委託する取扱いは認められていません(令和6年3月5日保発0305第14号)


まとめ

解説は以上です。

訪問看護療養費は健康保険の保険給付なものの、訪問看護としては健康保険(医療保険)と介護保険に分かれるため複雑な制度です。

多くの用語を一度に解説したため、この記事の概要や、社労士試験の過去問で復習してみてください。


(参考資料等)

厚生労働省|厚生労働省法令等データベースサービスより|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kensaku/index.html

  • 健康保険法
  • 介護保険法
  • 平成30年3月30日厚労告183号(居宅介護又は重度訪問介護に係る指定障害福祉サービスを提供している者として厚生労働大臣が定めるもの)
  • 平成18年9月29日厚労告538号(指定居宅介護の提供に当たる者としてこども家庭庁長官及び厚生労働大臣が定めるもの等)
  • 平成20年3月5日厚労告67号(訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法)
  • 平成12年3月31日厚生省令80号(指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準)
  • 平成12年3月31日厚生省告示169号(厚生労働大臣が定める指定訪問看護)
  • 平成20年3月5日厚労告63号(特掲診療料の施設基準等)
  • 平成18年3月6日厚労告103号(訪問看護療養費に係る訪問看護ステーションの基準等)
  • 令和7年4月3日保発0403第1号(「指定訪問看護事業者等の指導及び監査について」の一部改正について)
  • 平成4年2月29日厚生省告示32号(指定訪問看護事業者の指定を受けることができる者)

厚生労働省ホームページ|訪問看護の診療報酬について(医療保険)より
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000078916_00001.html

  • 令和6年3月5日保発0305第12号(訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について)
  • 令和6年3月5日保発0305第13号(「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準について」の一部改正について)
  • 令和6年3月5日保発0305第14号(指定訪問看護の事業を行う事業所に係る健康保険法第88条第1項の規定に基づく指定等の取扱いについて)