この記事では、健康保険法における埋葬料及び埋葬費を解説しています。
社会保険労務士試験の独学、労務管理担当者の勉強などに役立てれば嬉しいです。
記事中の略語はそれぞれ次の意味で使用しています。
- 法 ⇒ 健康保険法
- 令 ⇒ 健康保険法施行令
- 則 ⇒ 健康保険法施行規則
- 保険者 ⇒ 協会けんぽ及び各健康保険組合
当記事は条文等の趣旨に反するような極端な意訳には注意しております。ただし、厳密な表現と異なる部分もございます。詳しくは免責事項をご確認ください。
埋葬料(埋葬費)
この記事は「協会けんぽ」の被保険者を想定して制度を解説しています。
実社会における保険給付の手続き(申請書の様式、添付書類など)については、各保険者にご確認ください。
健康保険では、被保険者の死亡について、次の①及び②の保険給付を定めています。
- 埋葬料
- 埋葬費(埋葬に要した費用に相当する金額)
①②ともに申請書の提出が必要なため、保険給付の方式としては現金給付です。
被扶養者の死亡については、埋葬料とは別に「家族埋葬料」が定められています。
(家族埋葬料は、被扶養者に係る他の保険給付と合わせて別の記事で解説します)
この記事では、被保険者の死亡に係る保険給付(①及び②)を解説します。
(資格喪失後の死亡に関する給付も、別の記事で解説します)

- 被保険者が死亡したときは、その者により生計を維持していた者で、埋葬を行うものに対し、埋葬料として、政令で定める金額(5万円)を支給する(法100条1項)
- ①により埋葬料の支給を受けるべき者がない場合においては、埋葬を行った者に対し、①の金額(5万円)の範囲内においてその埋葬に要した費用に相当する金額を支給する(法100条2項)
この記事では、②を「埋葬費」と表記しています。
①の埋葬料が支給されるべき人がいるならば、②の埋葬費は支給されません。
①埋葬料
埋葬料の趣旨は、被保険者に生計を維持されていた埋葬を行う者に対し、その救済又は弔慰を目的として支給されます(同旨 昭和36年7月5日保険発63号)
被保険者に生計を維持されていた者ならば、次のいずれも問われません。
- 被扶養者である
- 親族である
- 埋葬を行った者の生計は、被保険者が中心となって維持していた(主として生計維持)
- 住居及び家計を共同にしていた(同一世帯)
また、埋葬を行う者(行うべき者の趣旨)で足りるため、「埋葬を行った」かは埋葬料の支給要件ではありません。
生計維持の程度については、被保険者により生計の全部又は大部分を維持していた者のみに限らず、生計の一部分を維持していた者をも含むと解されています(昭和8年8月7日保発502号)
②埋葬費
埋葬費の支給対象者は、「埋葬料の支給を受けるべき者がない」場合における「埋葬を行った者」です。
埋葬を行うべき者がいなくとも、実際に埋葬を行った後でないと埋葬費を請求できません。
なお、「埋葬を行った者」も被保険者の親族である必要はありません。
被保険者の死亡の理由について
被保険者又は被保険者であった者が、自己の故意の犯罪行為により、又は故意に給付事由を生じさせたときは、当該給付事由に係る保険給付は行われません(法116条)
被保険者の自殺による死亡については、故意に基く事故ではあるが、死亡は絶対的な事故であり、救済又は弔慰に値いするとみられるため、給付制限の例外として埋葬料を支給すべきとなっています(昭和26年7月6日保発2285号)
- 埋葬料の金額は、5万円です(令35条)
- 埋葬費の金額は、5万円の範囲内で埋葬に要した費用です。
①埋葬料は一律5万円の支給です(埋葬した後に申請する場合でも、埋葬に要した費用の証拠書類は必要ありません)
②埋葬費の申請には「埋葬に要した費用の金額に関する証拠書類」の添付が必要となり、5万円の範囲内で実費相当の支給となります。
(埋葬に要した費用として認められる範囲については、各保険者の取扱いをご確認ください)
支給申請

埋葬料又は埋葬費の支給を受けようとする者は、一定の事項を記載した申請書を保険者に提出する必要があります(則85条1項)
申請書の記載事項には、被保険者の死亡の年月日及び原因等の他に、次の項目も設けられています。
- 埋葬料の支給申請にあっては、被保険者と申請者との続柄(則85条1項3号)
- 埋葬費の支給申請にあっては、埋葬を行った年月日及び埋葬に要した費用の額(則85条1項4号)
また、死亡が第三者の行為によるときは、その事実並びに第三者の氏名及び住所又は居所(氏名又は住所若しくは居所が明らかでないときは、その旨)の記載も必要です(則85条1項5号)
添付書類
申請書には、次に掲げる書類を添える必要があります(則85条2項)
- 市町村長(特別区の区長を含む)の埋葬許可証若しくは火葬許可証の写し、死亡診断書、死体検案書若しくは検視調書の写し、被保険者の死亡に関する事業主の証明書又はこれに代わる書類(保険者が機構保存本人確認情報の提供を受けることができるときは、この限りでない)
- 埋葬費の支給申請にあっては、埋葬に要した費用の金額に関する証拠書類
①の機構保存確認情報とは、地方公共団体情報システム機構が保存する本人確認情報(住民票の記載事項のうち一定のもの)であって保存期間が経過していないものをいいます(住民基本台帳法30条の7第4項)
ちなみに、協会けんぽの申請書には、事業主証明欄(被保険者の死亡に関する事業主の証明を記載する欄)があります。
- 健康保険法施行規則の規定によって申請書又は届書に意見書又は証明書を添付しなければならない場合であっても、申請書又は届書に相当の記載を受けたときは、意見書又は証明書の添付を要しないものとされています(則110条)
- 事業主は、保険給付を受けようとする者から健康保険法施行規則の規定による証明書を求められたとき、又は則110条の規定による証明の記載を求められたときは、正当な理由がなければ拒むことができません(則33条)
なお、実際の申請書の様式や必要となる添付書類(例えば、被扶養者以外の者が埋葬料を請求するケースにおける、生計維持関係を証明する書類など)については、各保険者にご確認ください。

- 保険給付を受ける権利は、これらを行使することができる時から2年を経過したときは、時効によって消滅します(法193条)
- 健康保険法又はそれに基づく命令の期間の計算については、民法の期間に関する規定を準用します(法194条)
具体的には、次の取扱いとなります(民法第6章を参照)
- 埋葬料については、死亡した日の翌日から起算して2年を経過したときは、請求権が時効によって消滅します。
- 埋葬費については、埋葬を行った日の翌日から起算して2年を経過したときは、請求権が時効によって消滅します。
支給要件で解説したとおり、埋葬料を受ける権利は、被保険者が死亡したときから行使できます。
一方、埋葬費を受ける権利は、埋葬を行ったときから行使できます(被保険者が死亡しても、実際に埋葬しないと行使できません)
申出期限の考え方(2年間の計算)については、療養費の解説記事(こちら)をご参照ください。
解説は以上です。
ここまでの解説を簡単に整理しておきます。試験勉強の参考にしてください。
| 項目 | 埋葬料 | 埋葬費 |
| 対象者 | 埋葬を行う者 | 埋葬を行った者 |
| 支給要件 | 被保険者により生計維持 | 埋葬料を支給する者がいない |
| 支給額 | 5万円 | 5万円の範囲内で実費相当 |
| 申請書の主な記載事項 | 被保険者と申請者との続柄 | 埋葬を行った年月日 埋葬に要した費用の額 |
| 時効の起算日 | 死亡日の翌日 | 埋葬を行った日の翌日 |
(参考資料等)
厚生労働省|厚生労働省法令等データベースサービスより|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kensaku/index.html
- 健康保険法
- 昭和36年7月5日保険発63号(健康保険法第六十条に該当する者に対する埋葬料の支給について)
- 昭和8年8月7日保発502号(健康保険法第四十九条ノ「被保険者ニ依リ生計ヲ維持シタル者」ノ意義ニ関スル件)
- 昭和26年3月19日保文発721号(法第六十条の疑義解釈について)
- 昭和26年7月6日保発2285号(保険給付の疑義について)


