この記事では、保険給付の通則に関係する次の制度を解説しています。
- 受給権の保護
- 質問等の権限
- 証明書等の取扱い
- 給付の取扱い(付加給付等)
記事中の略語はそれぞれ次の意味で使用しています。
- 法 ⇒ 健康保険法
- 則 ⇒ 健康保険法施行規則
- 保険者 ⇒ 協会けんぽ及び各健康保険組合
当記事は条文等の趣旨に反するような極端な意訳には注意しております。ただし、厳密な表現と異なる部分もございます。詳しくは免責事項をご確認ください。
受給権の保護

- 保険給付を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押さえることができない(法61条)
- 租税その他の公課は、保険給付として支給を受けた金品を標準として、課することができない(法62条)
①の規定は、保険給付として受けた金品(簡単にいうと、実際に振り込まれたお金)でなく、保険給付を受ける権利そのものについて差押等を禁止する趣旨です。
②の規定は、保険給付として受けた金品(例えば、振り込まれた傷病手当金)に対して、所得税をかけたり、社会保険料をかけることを禁止する趣旨です。
質問等の権限
権限を行使する主体を「保険者」「厚生労働大臣」に分けて記載しています。

| 根拠 | 法59条 |
| 誰が | 保険者 |
| いつ | 保険給付に関して必要があるとき |
| 誰に対し | 保険給付を受ける者(被扶養者を含む) |
| 何を(できる) | 文書その他の物件の提出又は提示を命じる 当該(保険者の)職員に質問又は診断をさせる |
- 次の①②によって質問を行う職員は、その身分を示す証明書を携帯し、かつ、関係者の請求があるときは、これを提示しなければならない(法60条3項)
- 次の①②による権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない(法60条3項)
- 次の①②の権限は、地方厚生局長に委任する。ただし、①②ともに厚生労働大臣が自ら権限を行うことを妨げない(則159条)
なお、保険者には、次の①(法60条1項)及び②(法60条2項)を行う権限はありません。
① 医師等への質問検査

| 根拠 | 法60条1項 |
| 誰が | 厚生労働大臣 |
| いつ | 保険給付を行うにつき必要があるとき |
| 誰に対し | 医師、歯科医師、薬剤師、手当を行った者 これを使用する者 |
| 何を(できる) | その行った診療、薬剤の支給又は手当に関し 報告を命じる 診療録、帳簿書類その他の物件の提示を命じる 当該(厚生労働大臣の)職員に質問させる |
② 被保険者等への質問検査

| 根拠 | 法60条2項 |
| 誰が | 厚生労働大臣 |
| いつ | 必要があるとき |
| 誰に対し | 次の保険給付を受けた被保険者又は被保険者であった者 療養の給付、入院時食事(生活)療養費、保険外併用療養費、療養費 訪問看護療養費 家族療養費、家族訪問看護療養費 |
| 何を(できる) | 受けた保険給付に係る診療、調剤又は指定訪問看護の内容に関し 報告を命じる 当該(厚生労働大臣の)職員に質問させる |
証明書等の取扱い
つづいて、事業主の「証明」、医師の「意見書」、保険者による「通知」に関係する規定です。
- 健康保険法施行規則の規定によって申請書又は届書に意見書又は証明書を添付しなければならない場合であっても、申請書又は届書に相当の記載を受けたときは、意見書又は証明書の添付を要しないものとする(則110条)
- 事業主は、保険給付を受けようとする者から健康保険法施行規則の規定による証明書を求められたとき、又は①による証明の記載を求められたときは、正当な理由がなければ拒むことができない(則33条)
①としては、例えば、傷病手当金の支給申請書に「事業主の証明」や「医師の意見」の記載を受けた場合は、同旨の内容を記載した書類を別に添付する必要はありません。
保険給付に関する処分の通知(則112条)
- 保険者は、保険給付に関する処分を行ったときは、速やかに、文書でその内容を申請者に通知しなければならない。
- ①の場合において、保険給付の全部又は一部につき不支給の処分をしたときは、その理由を付記しなければならない。
医療費の通知(則112条の2)

保険者は、被保険者又はその被扶養者が支払った医療費の額を当該被保険者又はその被扶養者に通知するときは、次の①~⑥の事項を通知することを標準とする。
- 被保険者又はその被扶養者の氏名
- 療養を受けた年月
- 療養を受けた者の氏名
- 療養を受けた病院、診療所、薬局その他の者の名称
- 被保険者又はその被扶養者が支払った医療費の額
- 保険者の名称
「医療費の通知」のうち上記6項目(以下、標準項目)を記載したものは、医療費控除の申告(*)に活用できます(令和3年12月24日事務連絡)
(*)電子交付された医療費の通知データを利用して電子申告する場合は、国税庁が定める仕様に準拠する必要があります。
なお、保険者が通知する「医療費の通知」としては、標準項目の記載は義務ではありません(前掲事務連絡)
(例えば、DVの被害者など、④について配慮が必要な場合もあります。なお、医療費の通知が無くても医療費控除の申告はできます)
給付に関する取扱い
最後に次の制度を解説します。
- 健康保険組合の付加給付
- 保険給付の方法
- 保険給付に関する手続の特例
健康保険組合は、下表の給付(法定の保険給付)に併せて、規約で定めるところにより、保険給付としてその他の給付を行うことができます(法53条)
| 被保険者 | 被扶養者 |
| 療養の給付 入院時食事療養費 入院時生活療養費 保険外併用療養費 療養費 | 家族療養費 |
| 訪問看護療養費 | 家族訪問看護療養費 |
| 移送費 | 家族移送費 |
| 傷病手当金 | なし |
| 埋葬料 | 家族埋葬料 |
| 出産育児一時金 | 家族出産育児一時金 |
| 出産手当金 | なし |
| 高額療養費 高額介護合算療養費 | 同左 |
協会けんぽについては、法53条による保険給付(付加給付)を行えません。
付加給付の趣旨
(附加は、付加で統一しています)
付加給付は、保険給付として、法定給付に併せて行えるため、法の目的・趣旨に沿うことが必要です。
なお、次のような給付は、廃止するよう示されています(同旨 昭和32年2月1日保発3号)
- 法定給付期間を超えるもの。ただし、傷病手当金の給付期間を延長する付加給付は認められています。
- 健康保険法の目的を逸脱するもの
- 健康保険法の制度で定める医療の内容または医療の給付の範囲を超えるもの(保険診療の範囲を独自に拡張することはできません)
- 保健施設的なもの
- 被保険者期間(勤続期間)により差の生じるもの
- 特定の医療機関にて受診した場合に限り認める等、医療機関により差の生じるもの(受給の機会均等を害するおそれがあるため)
付加給付の内容の基準については、健康保険組合事業運営指針(厚生労働省 外部リンク)をご参照ください。
なお、具体的には、各健保組合の取扱いをご確認ください。
次の保険給付の支給は、その都度、行わなければなりません(法56条1項)
- 入院時食事療養費、入院時生活療養費、保険外併用療養費、療養費
- 訪問看護療養費
- 移送費
- 傷病手当金
- 埋葬料(埋葬費も同様)
- 出産育児一時金
- 出産手当金
- 家族療養費、家族訪問看護療養費、家族移送費、家族埋葬料、家族出産育児一時金
ただし、傷病手当金、出産手当金の支給は、毎月一定の期日に行うことができます(法56条1項)
(極端な例をいえば、1日単位で連続して申請された傷手、出手もその都度支給するとなると、相当煩雑になるでしょう)
保険者は、保険給付に関する手続について、下記①~③の規定(施行規則)にかかわらず、別段の定めをすることができます(則111条1項、2項)
ただし、協会けんぽについては、厚生労働大臣の承認が必要です(則111条1項)
(実際の支給申請については、各保険者の取扱いをご確認ください)
① 被保険者についての規定
- 食事療養標準負担額の減額に関する特例(則61条)
- 生活療養標準負担額の減額に関する特例(則62条の4)
- 療養費の支給の申請(則66条)
- 移送費の支給の申請(則82条)
- 傷病手当金の支給の申請(則84条、88条)
- 埋葬料の支給の申請(則85条)
- 出産育児一時金の支給の申請(則86条~86条の6)
- 出産手当金の支給の申請(則87条、87条の2)
② 被扶養者についての規定
- 家族療養費の支給(則90条)
- 家族訪問看護療養費の支給(則94条)
- 家族移送費の支給(則95条)
- 家族埋葬料の支給の申請(則96条)
- 家族出産育児一時金の支給の申請(則97条)
③ 共通
- 第三者の行為による被害の届出(則65条)
- 限度額適用の認定等(則103条の2)
- 月間の高額療養費の支給の申請(則109条)
解説は以上です。
社労士試験での出題頻度は高くはないため、過去問の範囲から覚えてみてください。
(参考資料等)
厚生労働省|厚生労働省法令等データベースサービスより|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kensaku/index.html
- 健康保険法
- 昭和32年2月1日保発3号(健康保険組合の事業運営について)
- 令和3年12月22日保発1222第4号(「健康保険組合の事業運営について」の一部改正について)
- 令和3年12月24日事務連絡(「医療費通知を活用した医療費控除申告簡素化」Q&Aの改正について)

