この記事では、労働関係調整法を解説しています。
- 「法」および「労調法」は「労働関係調整法」の意味で使用しています。
- 「いふ」「ゐる」などの旧仮名遣いは、現代仮名遣いで表記しています。
- 「斡旋」は「あっせん」、「相俟って」は「相まって」、「虞」は「おそれ」で表記しています。
社会保険労務士試験の独学、労務管理担当者の勉強などに役立てれば嬉しいです。
当記事は条文等の趣旨に反するような極端な意訳には注意しております。ただし、厳密な表現と異なる部分もございます。
詳しくは免責事項をご確認ください。
目次 非表示
労働関係調整法の目的等
目的条文とその周辺知識です。
社労士試験の勉強用に条文を載せておきます。
この法律は、労働組合法と相まって、労働関係の公正な調整を図り、労働争議を予防し、又は解決して、産業の平和を維持し、もって経済の興隆に寄与することを目的とする。
ごくごく単純化すると、労働関係調整法とは、労働争議(ストライキなど)を調整するための法律です。

労働関係の当事者は、互に労働関係を適正化するように、次の事項について特に努力するよう求められています(法2条)
- 労働協約中に、常に労働関係の調整を図るための正規の機関の設置及びその運営に関する事項を定めること
- 労働争議が発生したときは、誠意をもって自主的に解決すること
また、労働関係調整法では労働争議を調整する手段(あっせん、調停、仲裁)を定めていますが、次のように留意事項も規定しています(法4条)
- この法律は、労働関係の当事者が、直接の協議または団体交渉によって、労働条件その他労働関係に関する事項を定め、又は労働関係に関する主張の不一致を調整することを妨げるものでない。
- この法律は、労働関係の当事者が、上記の努力をする責務を免除するものではない。
争議行為と労働争議
「労働争議の調整」の前に、「争議行為とは」と「労働争議とは」を解説します。
簡単にいうと、「争議行為」はストライキなどの行為をいい、「労働争議」はストライキなどが発生している状態です。

争議行為とは、同盟罷業、怠業、作業所閉鎖その他労働関係の当事者が、その主張を貫徹することを目的として行う行為及びこれに対抗する行為であって、業務の正常な運営を阻害するものをいいます(法7条)
労働争議とは、労働関係の当事者間において、労働関係に関する主張が一致しないために、争議行為が発生している状態または発生するおそれがある状態をいいます(法6条)
同盟罷業、怠業、作業所閉鎖のそれぞれの意味は、次のとおりです(労働争議統計調査 用語の解説より一部表現を変えて掲載)
- 同盟罷業(ストライキ)とは、自己の主張を貫徹するために労働組合または労働者の団体によってなされる一時的な作業の停止をいいます。
- 怠業(サボタージュまたはスローダウン)とは、労働組合または労働者の団体が自己の主張を貫徹するために、作業を継続しながらも、作業を量的質的に低下させることをいいます。
- 作業所閉鎖(ロックアウト)とは、使用者側が争議手段として生産活動の停止を宣言し、作業を停止することをいいます。
ちなみに、令和5年労働争議統計調査(調査の時期は令和5年1月〜12月)によると、総争議の件数は292件(争議行為を伴う争議の件数は75件)となっています。
参考|厚生労働省ホームページ(外部サイトへのリンク)|労働争議統計調査

「労働争議」は、個々の労働者と事業主との争い(個別的労使紛争)ではなく、労働組合または労働者の団体と事業主との争い(集団的労使紛争)です。
労働関係調整法は、労働争議を調整する法律ですので、個別的労使紛争は扱いません。
個別的労使紛争については、個別労働紛争解決促進法の対象となります(こちらの記事で解説しています)
参考|労働関係の法律
労働基準法、労働契約法、労働組合法、労働関係調整法、個別労働紛争解決促進法を簡単に整理しておきます。
- 労働基準法は、労働条件の最低ラインを定めた法律です。
- 労働契約法は、労働契約(労働契約の中身が個々の労働条件です)に関する民事的なルールを定めた法律です。
- 労働組合法は、憲法28条で保障する労働三権を具体化した法律です。
- 労働関係調整法は、労働組合と事業主との争いを調整するための法律です。
- 個別労働紛争解決促進法は、個々の労働者と事業主との争いを調整するための法律です。
「今、何の話だっけ…」となったときは、全体像をざっくりと思い出してみてください。
それでは、労働関係調整法の解説に話を戻します。
争議行為をするための届出や許可は不要ですが、発生したら届出が必要です。
ただし、公益事業の争議行為については、予告も必要です(実際に争議行為をした場合は、発生届も必要です)
争議行為の発生届
争議行為が発生したときは、その当事者は、直ちにその旨を労働委員会または都道府県知事に届け出なければなりません(法9条)
争議行為の発生届は、すべての事業が対象です。
「公益事業の争議行為」についての予告

公益事業の争議行為については、争議行為をしようとする日の少なくとも10日前までに、次の区分に応じて、その旨の通知が必要です(法37条1項、法施行令10条の4第1項)
- 一つの都道府県の区域内のみに係る争議行為は、当該都道府県労働委員会および当該都道府県知事に対して
- 複数の都道府県にまたがる、又は全国的に重要な問題に係る争議行為は、中央労働委員会および厚生労働大臣に対して
厚生労働大臣または都道府県知事は、予告の通知を受けたら公表します(法施行令10条の4第4項)
(厚生労働省や都道府県のホームページで公表されています)
労調法における「公益事業」とは、次の①~④のうち、公衆の日常生活に欠くことのできない事業です(法8条1項)
- 運輸事業
- 郵便、信書便または電気通信の事業
- 水道、電気またはガスの供給の事業
- 医療または公衆衛生の事業
①の「運輸事業」とは、一般公衆の需要に応じ、一定の路線を定めて定期的に、旅客または貨物を輸送する事業をいい、遊覧のみを目的とする事業は除きます(昭和22年5月15日労発263号)
(路線バス、鉄道、定期航空は該当しますが、タクシーについては路線でなく区域となるため該当しません)
「公益事業」の具体的な解釈については、下記の通達をご参照ください。
参考|厚生労働省ホームページ(外部サイトへのリンク)|昭和22年5月15日労発263号
予告通知の趣旨
公益事業は公衆の日常生活に欠かせないため、抜き打ち争議(相手に予告しない、又は予告期間の前に行う争議行為)を禁じて、争議行為のあることを公衆にあらかじめ周知し、公衆の損害を最小限に食い止めることを重視されています(同旨 昭和27年9月15日労発167号)
なお、公益事業の争議行為を予告なしにすると、違反行為について責任のある使用者(又はその団体)、労働者の団体、その他の者(又はその団体)は、10万円以下の罰金の対象となります(法39条1項)

(そもそも論として、労働組合法1条2項により、暴力の行使は正当な行為となりません)
工場事業場における安全保持の施設の正常な維持または運行を停廃したり妨げる行為は、争議行為としてでも禁止されています(法36条)
なお、労調法36条は、人命保護が目的ですので、労働者の組合加入や労働争議に参加することを禁止する規定ではありません(昭和23年12月7日労発535号)
(当該事業場で何らかの争議行為をするにしても、労調法36条の行為は禁止するという意味です)
法36条については、次のような解釈があります(昭和30年8月31日労収1517号)
- 「安全保持の施設」とは、一般に人命に対する危害予防または衛生上必要な施設をいうものと解されるが、如何なる施設がこれに該当するかは、当該事業場の具体的事情によって判断される。
- 労調法36条の規定は、健全な社会通念に照して正当ならざる争議手段のうち、顕著な一例を示した趣旨と考えられる。
- 精神病院における争議行為についていえば、精神病院においては争議行為が一切許されないと解することは勿論できないが、一般の工場事業場における争議行為の場合に比して、相当強い制約を受けるべきことは、その業務の特殊性からして当然である。
電気事業及び石炭鉱業における争議行為の方法の規制に関する法律(以下、スト規制法)
電気事業(及び石炭鉱業)については、いわゆるスト規制法により、次のように争議行為が制限されています(スト規制法2条)
- 電気事業の事業主又は電気事業に従事する者は、争議行為として、電気の正常な供給を停止する行為その他電気の正常な供給に直接に障害を生ぜしめる行為をしてはならない。
- (石炭鉱業については省略します)
なお、電気事業における争議行為を一律に禁止する規定ではありません。
スト規制法2条で禁止する行為に該当するか否かは、専ら当該行為が発電、送電、給電、変電及び配電に直接に障害を生じさせる客観的具体的な可能性があるか否かにより判断されます(平成27年7月3日政労発0703第1号)
スト規制法の対象となる「電気事業」は、次のとおりです(スト規制法1条)
- 一般送配電事業(電気事業法2条1項8号)
- 送電事業(同項10号)
- 厚生労働大臣が指定する発電事業者(関西電力や東北電力等)が営む発電事業(同項15号、平成28年4月1日厚生労働省告示192号)
労働争議の調整

ここからは、労働争議の調整を解説します。
労使間の主張の対立については、当事者で自主的に解決できると理想的です。しかし、平行線をたどることもあるでしょう。
そこで、労働関係調整法では、第三者が労働争議を調整する制度として、あっせん、調停、仲裁の三つを定めています。
いずれも裁判とは別の制度で、労働委員会(国や都道府県から独立して権限を行使する行政委員会)が行います(法施行令2条の2第1項)
- 一つの都道府県の区域内のみに係る争議行為については、都道府県労働委員会が担当します。
- 複数の都道府県にまたがる、又は全国的に重要な問題に係る争議行為(緊急調整に係るものを含む)については、中央労働委員会が担当します。
労働委員会については、こちらの記事で解説しています。
ちなみに、全国の労働委員会が取り扱った調整事件について、令和5年の新規係属件数をみると、「あっせん」は184件、「調停」は6件(うち2件は行政執行法人等の事件数)、「仲裁」は0件となっています(中央労働委員会ホームページ 調整事件取扱状況 第1表より)
参考|中央労働委員会(外部サイトへのリンク)|調整事件取扱状況

労働争議の「あっせん」は、労使の一方からでも申請できます。
開始手続
「あっせん」の開始事由は次のとおりです(法12条)
- 関係当事者の双方または一方から申請された
- 労働委員会の会長の職権
労働委員会の会長は、あっせん員名簿に記されている者の中から、あっせん員を指名します(法12条)
「あっせん」は、あっせん員が担当します(法13条)
調整の内容
あっせん員は、関係当事者の間に入り、双方の主張の要点を確め、事件が自主的に解決されるよう努めます(法13条)
簡単にいうと、学識経験者(あっせん員)が労使双方に対して助言をして、両者が和解できるよう促します。
あっせん委員の提案を受け入れるかは当事者の自由です。

労働争議の「調停」は、原則、労使の双方からの申請が必要です。
「労働協約に定めがある場合」「公益事業に関する事件」については、労使の一方からでも申請できます。
開始手続
「調停」の開始事由は次のとおりです(法18条)
- 関係当事者の双方から申請された
- 労働協約の定めに基づいて、関係当事者の双方または一方から申請された
- 公益事業に関する事件について、関係当事者の一方から申請された
- 公益事業に関する事件について、労働委員会が職権に基づいて決議した
- 公益事業に関する事件または公益に著しい障害を及ぼす事件について、厚生労働大臣または都道府県知事から請求があった
労働委員会による労働争議の「調停」は、調停委員会が担当します(法19条)
調停委員会は、使用者を代表する委員、労働者を代表する委員、公益を代表する委員で構成され、それぞれ労働委員会の会長が指名します(法19条、法21条)
なお、使用者を代表する委員と労働者を代表する委員は同数です(法20条)
調整の内容
調停委員会は、期日を定めて、関係当事者の出頭を求め、意見を聴取します(法24条)
調停委員会は、調停案を作成して関係当事者に示し、受諾を勧告することができます。また、その調停案は理由を附して公表することができます(法26条)
調停案は勧告の対象となりますが、受け入れるかは当事者の自由です。

労働争議の「仲裁」は、原則、労使の双方からの申請が必要です。
「労働協約に、仲裁の申請を義務付ける趣旨の定めがある」場合は、労使の一方からでも申請できます。
開始手続
「仲裁」の開始事由は次のとおりです(法30条)
- 関係当事者の双方から申請がされた
- 労働協約に、労働委員会による仲裁の申請をなさなければならない旨の定めがある場合に、その定めに基いて、関係当事者の双方または一方から仲裁の申請がされた
労働委員会による労働争議の「仲裁」は、仲裁委員会が担当します(法31条)
仲裁委員会は、3人以上の奇数の委員で組織され、労働委員会の公益を代表する委員または特別調整委員(法8条の2)のうちから、関係当事者が合意により選定した者につき、労働委員会の会長が指名します(法31条、法31条の2)
調整の内容
仲裁委員会の決定(仲裁裁定)は、書面によって行われ、労働協約と同一の効力を有します(法33条、34条)
あっせん、調停と異なり、仲裁裁定がされると、労働争議の当事者は労働協約と同様に拘束されます。
内閣総理大臣は、争議行為により業務が停止すると国民経済の運行を著しく阻害し、又は国民の日常生活を著しく危くするおそれがあると認められ、そのおそれが現実に存するときに限り、緊急調整の決定ができます(法35条の2第1項)
緊急調整の決定は、あらかじめ中央労働委員会の意見を聴かなければならず、決定されるとその旨が公表されます(法35条の2第2項、3項)
関係当事者は、緊急調整の公表の日から50日間は、争議行為をできません(法38条)。また、争議行為の予告は50日間を経過した後でなければできません(法37条2項)
なお、緊急調整の決定についての審査請求はできません(法35条の5)
(昭和27年の石炭労働争議について緊急調整の決定がされました)
労働関係調整法の解説は以上です。
参考|労使関係の状況
社労士試験では、労使関係の状況について、数年おきに同様の論点が出題されています(択一式では令和6年、令和元年、平成23年に出題)
そろそろ出題されるかな…という年に受験される方は、結果の概要をチェックしてみてください。
令和4年労使間の交渉等に関する実態調査(令和4年6月30日現在の状況について、同年7月に調査)によると、次の内容が公表されています(結果の概要より一部を抜粋)
労使関係についての認識
使用者側との労使関係の維持についての認識をみると、「安定的」と認識している労働組合は約9割(*注)です。
(*注)「労使関係についての認識」は毎年調査されます。令和4年調査(89.5%)、令和5年調査(91.0%)です。
正社員以外の労働者に関する話合いの状況
過去1年間(令和3年7月1日~令和4年6月30日)に、正社員以外の労働者に関して使用者側と話合いが持たれた事項(複数回答)は、次のとおりです(割合の高いものから三つ抜粋)
- 正社員以外の労働者(派遣労働者を除く)の労働条件(66.2%)
- 同一労働同一賃金に関する事項(55.2%)
- 正社員以外の労働者(派遣労働者を含む)の正社員への登用制度(38.7%)
団体交渉
過去3年間(令和元年7月1日〜令和4年6月30日。以下同じ)における、使用者側との間で行われた団体交渉の状況は、次のとおりです。
- 「団体交渉を行った」68.2%
- 「団体交渉を行わなかった」30.7%
労働争議
過去3年間における、労働組合と使用者との間で発生した労働争議の状況は、次のとおりです。
- 「労働争議があった」3.5%
- 「労働争議がなかった」95.5%
過去3年間に「労働争議がなかった」労働組合について、その理由(複数回答 主なもの3つまで)は、次のとおりです(割合の高いものから三つ抜粋)
- 対立した案件がなかった(54.3%)
- 対立した案件があったが話合いで解決した(38.1%)
- 対立した案件があったが労働争議に持ち込むほど重要性がなかった(11.7%)
問題解決の手段
労使間の諸問題を解決するために今後最も重視する手段は、次のとおりです。
- 「団体交渉」49.8%
- 「労使協議機関」43.3%
- 「苦情処理機関」1.7%
- 「争議行為」0.7%
参考|厚生労働省ホームページ(外部サイトへのリンク)|令和4年 労使間の交渉等に関する実態調査
解説は以上です。
あっせん、調停、仲裁について、下表に整理しておきます。
この記事の復習として読んでみてください。
(申請については、労働委員会の職権、大臣や知事からの請求を省略しています)
制度| | あっせん | 調停 | 仲裁 | |
申請| | 労使の双方または一方 | 労使の双方 労働協約に基づく一方 公益事業についての一方 | 労使の双方 労働協約に基づく一方 | |
担当| | あっせん員 | 調停委員会(公労使) | 仲裁委員会(公) | |
内容| | あっせん案の提示 | 調停案の提示、受諾の勧告 | 仲裁裁定 | |
受諾| | 任意 | 任意 | 労働協約と同一の効力 |
(参考資料等)
厚生労働省|厚生労働省法令等データベースサービスより|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kensaku/index.html
- 労働関係調整法
- 平成28年4月1日厚生労働省告示192号(電気事業及び石炭鉱業における争議行為の方法の規制に関する法律第一条の規定に基づき厚生労働大臣が指定する発電事業者)
- 昭和27年9月15日労発167号(労働関係調整法第三十七条について)
- 昭和23年12月7日労発535号(安全保持施設関係者の組合加入等)
- 昭和30年8月31日労収1517号(病院等における争議行為の正当性の限界)
- 昭和27年8月1日労発133号(労働関係調整法等の一部を改正する法律の施行等について)
- 平成27年7月3日政労発0703第1号(電気事業及び石炭鉱業における争議行為の方法の規制に関する法律(電気事業関係)の解釈)
- 昭和27年12月16日労発252号(石炭労働争議に関する緊急調整の決定について)
厚生労働省ホームページ|中央労働委員会|労働争議の調整より|
https://www.mhlw.go.jp/churoi/sougi/index.html
- 労働争議の調整の種類(あっせん・調停・仲裁)及び手続きの流れ
- 争議行為発生届について
- 争議行為の予告通知について
文化庁ホームページ|平成22年11月30日内閣告示2号(常用漢字表)
https://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/sisaku/joho/joho/kijun/naikaku/kanji/