この記事では、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律を解説しています。
さすがに39文字のフルネームを連呼するわけにはいかないので、「労働施策総合推進法」と表記します。
また、記事中の略語は、それぞれ次の意味で使用しています。
- 法 ⇒ 労働施策総合推進法
- 則 ⇒ 労働施策総合推進法施行規則
- 雇用法 ⇒ 雇用保険法
- 雇用則 ⇒ 雇用保険法施行規則
当記事は、条文等の趣旨に反するような極端な意訳には注意しております。ただし、厳密な表現と異なる部分もございます。
詳しくは免責事項をご確認ください。
総則
はじめに、目的条文等を解説します。
社労士試験の勉強のため条文を載せておきます。
1 この法律は、国が、少子高齢化による人口構造の変化等の経済社会情勢の変化に対応して、労働に関し、その政策全般にわたり、必要な施策を総合的に講ずることにより、労働市場の機能が適切に発揮され、労働者の多様な事情に応じた雇用の安定及び職業生活の充実並びに労働生産性の向上を促進して、労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにし、これを通じて、労働者の職業の安定と経済的社会的地位の向上とを図るとともに、経済及び社会の発展並びに完全雇用の達成に資することを目的とする。
2 この法律の運用に当たっては、労働者の職業選択の自由及び事業主の雇用の管理についての自主性を尊重しなければならず、また、職業能力の開発及び向上を図り、職業を通じて自立しようとする労働者の意欲を高め、かつ、労働者の職業を安定させるための事業主の努力を助長するように努めなければならない。
労働施策総合推進法は、雇用対策法を改正して平成30年7月に施行されました。
結論だけ切り取ると、次の三つを目的としています。
- 労働者の職業の安定と経済的社会的地位の向上を図ること
- 経済および社会の発展に資すること
- 完全雇用の達成に資すること
目的を達成するために、経済社会情勢の変化に対応して、労働に関する施策を総合的に講じます。
国の施策
1 国は、第一条第一項の目的を達成するため、前条に規定する基本的理念に従って、次に掲げる事項について、総合的に取り組まなければならない。
(省略)
十五 職場における労働者の就業環境を害する言動に起因する問題の解決を促進するために必要な施策を充実すること。
(省略)
4 国は、第一項第十五号に規定する施策の充実に取り組むに際しては、何人も職場における労働者の就業環境を害する言動を行ってはならないことに鑑み、当該言動が行われることのない就業環境の形成に関する規範意識の醸成がなされるよう、必要な啓発活動を積極的に行わなければならない。

労働者の募集および採用の場面において、均等な機会の確保を図る法律はいくつかあります。
「性別」については男女雇用機会均等法で、「障害」については障害者雇用促進法で定められています。そして「年齢」については、労働施策総合推進法で定めています。
義務
次の①から⑦を除いて、事業主は、労働者の募集および採用について、年齢にかかわりなく均等な機会を与えなければなりません(法9条、則1条の3)
(次の①から⑦の場合は、年齢制限を設けても違法ではありません)
- 事業主が、雇用する労働者の定年の定めをしている場合において当該定年の年齢を下回ることを条件として労働者の募集および採用を行うとき(期間の定めのない労働契約を締結することを目的とする場合に限る)
- 事業主が、労働基準法その他の法令の規定により特定の年齢の範囲に属する労働者の就業等が禁止または制限されている業務について、当該年齢の範囲に属する労働者以外の募集および採用を行うとき
- 長期間の継続勤務による職務に必要な能力の開発および向上を図ることを目的として、青少年その他特定の年齢を下回る労働者の募集および採用を行うとき(期間の定めのない労働契約を締結することを目的とする場合に限り、かつ、当該労働者が職業に従事した経験があることを求人の条件としない場合であって学校、専修学校、職業能力開発総合大学校を新たに卒業しようとする者として又は当該者と同等の処遇で募集および採用を行うときに限る)
- 事業主が雇用する特定の年齢の範囲に属する特定の職種の労働者(特定労働者)の数が相当程度少ないものとして厚生労働大臣が定める条件に適合する場合において、当該職種の業務の遂行に必要な技能および知識の継承を図ることを目的として、特定労働者の募集および採用を行うとき(期間の定めのない労働契約を締結することを目的とする場合に限る)
- 芸術または芸能の分野における表現の真実性等を確保するために特定の年齢の範囲に属する労働者の募集および採用を行うとき
- 高年齢者の雇用の促進を目的として、60歳以上の高年齢者である労働者の募集および採用を行うとき
- 特定の年齢の範囲に属する労働者の雇用を促進するため、当該特定の年齢の範囲に属する労働者の募集および採用を行うとき(当該特定の年齢の範囲に属する労働者の雇用の促進に係る国の施策を活用しようとする場合に限る)
いわゆる就職氷河期世代に限定した募集・採用の特例(⑦)は、令和7年3月31日で終了しました(則附則10条)
必要な届出、公表等
つづいて、労働施策総合推進における事務を解説します。

義務
常時雇用する労働者が300人を超える事業主は、労働者の職業選択に資するよう、雇い入れた通常の労働者及びこれに準ずる者として厚生労働省令で定める者に占める中途採用(新規学卒等採用者以外の雇入れをいう)により雇い入れられた者の割合を定期的に公表しなければなりません(法27条の2)
- 公表は、おおむね1年に1回以上、公表した日を明らかにして、直近の3事業年度について、インターネットの利用などにより、求職者等が容易に閲覧できるように行わなければなりません(則9条の2第1項)
- 通常の労働者に準ずる者とは、期間の定めのない労働契約を締結していて、1週間の所定労働時間が同一の事業主に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間に比べて短く、かつ、通常の労働者と同等の待遇を受ける労働者(短時間正社員)をいいます(則9条の2第2項)
事業主は、事業規模の縮小等に伴い離職を余儀なくされる労働者について、当該労働者が行う求職活動に対する援助その他の再就職の援助を行うことにより、その職業の安定を図るように努めなければなりません(法6条2項)
再就職援助計画の作成

義務
経済的事情による事業規模の縮小等の実施に伴い、一つの事業所において、1か月の期間内に30人以上の常時雇用する労働者が離職を余儀なくされることが見込まれる場合に義務付けられている制度です(則7条の2)
上記の場合、事業主は、当該離職を余儀なくされる労働者の再就職の援助のための措置に関する計画(再就職援助計画)を、事業規模の縮小等の実施に伴う最初の離職者が生じる日の1か月前までに作成しなければなりません(法24条1項、則7条の3)
- 再就職援助計画を作成するに当たっては、過半数労働組合(ない場合は過半数代表者)の意見を聴かなければなりません。変更しようとするときも同様です(法24条2項)
- 作成した再就職援助計画(則様式第一号)は、遅滞なく、管轄公共職業安定所長に提出して、認定を受けなければなりません。変更したときも同様です(法24条3項)
認定の申請をした事業主は、当該申請をした日に、大量の雇用変動の届出(後述)をしたとみなされます(法24条5項)
なお、離職を余儀なくされる労働者が30人未満の場合でも、計画を作成して認定を受けることができます(法25条)
計画の認定を受けて離職者の再就職を支援(求職活動のための休暇の付与など)する事業主、または計画の対象となる離職者を早期に雇入れた事業主は、それぞれ支給要件はあるものの、早期再就職支援等助成金の対象となります(法26条、雇用法62条、雇用則102条の4、102条の5)
事業規模の縮小などを理由に一定期間内に相当数の離職者が発生する場合(大量雇用変動)の規定です。
再就職援助計画の作成義務と重複する場合もありますが、大量雇用変動の場合は、計画の作成ではなく、離職者の数などを届け出る義務となります。
大量雇用変動の届出

大量雇用変動とは、一つの事業所において、1か月以内の期間に、自己都合または自己の責めに帰すべき理由によらないで離職する者(天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となったことにより離職する者を除く)の数が30人以上となる場合をいいます(則8条)
ただし、次のいずれかに該当する者の離職は人数に算入しません(則8条)
- 日々または期間を定めて雇用されている者(同一の事業主に6か月を超えて引き続き雇用されているものを除く)
- 試の使用期間中の者(同一の事業主に14日を超えて引き続き雇用されている者を除く)
- 常時勤務に服することを要しない者として雇用されている者
義務
大量雇用変動については、大量雇用変動の前に、離職者の数などを厚生労働大臣に届け出なければなりません(法27条1項)
実際には、大量離職届(則様式第二号)を、大量雇用変動がある日(大量雇用変動に係る離職の全部が同一の日に生じない場合は、当該大量雇用変動に係る最後の離職が生じる日)の少なくとも1か月前に、管轄公共職業安定所長に提出します(則9条)
大量離職届の届出をせず、又は虚偽の届出をした者には、30万円以下の罰金(両罰規定あり)が定められています(法40条1項1号、2項)

義務
次の場合、事業主は、厚生労働省令(則11条)で定めるところにより、氏名、在留資格、在留期間その他厚生労働省令で定める事項(則10条)について確認し、当該事項を厚生労働大臣に届け出なければなりません(法28条1項)
- 新たに外国人を雇い入れた場合
- 雇用する外国人が離職した場合
外国人雇用状況の届出(法28条1項の届出)は、次の①②③に応じて管轄公共職業安定所長に提出します(則12条)
- 新たに外国人を雇い入れた場合は、事実のあった日の属する月の翌月10日まで
- 雇用する外国人が離職した場合は、事実のあった日の翌日から起算して10日以内
- 雇用保険の被保険者でない外国人については、当該外国人を雇い入れた日または当該外国人が離職した日の属する月の翌月の末日まで
雇用保険の被保険者については、雇用保険の資格取得届または喪失届に必要事項を記入してハローワークに提出します(則10条2項、3項)
雇用保険の被保険者でなければ、外国人雇用状況届出書(則様式第三号)を提出します(則10条4項)
なお、外国人雇用状況の届出をせず、又は虚偽の届出をした者には、30万円以下の罰金(両罰規定あり)が定められています(法40条1項2号、2項)
ちなみに、外国人雇用状況の届出は集計され、公表されています(具体的にはこちらをご参照ください)
治療と就業の両立支援

令和8年4月1日施行の規定です。
努力義務
事業主に対し、治療と就業の両立について必要な措置を講じるよう努力義務が定められました。
- 事業主は、疾病、負傷その他の理由により治療を受ける労働者について、就業によって疾病又は負傷の症状が増悪すること等を防止し、その治療と就業との両立を支援するため、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
- 厚生労働大臣は、①に規定する措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るため必要な指針(治療と就業の両立支援指針)を定め、これを公表するものとする。
- 治療と就業の両立支援指針は、労働安全衛生法70条の2第1項に規定する指針と調和が保たれたものでなければならない。
- 厚生労働大臣は、治療と就業の両立支援指針に従い、事業主又はその団体に対し、必要な指導、援助等を行うことができる。
(安衛法70条の2第1項により、事業場における労働者の健康保持増進のための指針が定められています)
細かい論点になりますが、規定では「仕事」ではなく「就業」となります。
派遣労働者についての特例
法27条の3第1項(上記①)の適用については労働者派遣法に特例が規定されています。
具体的には、派遣労働者については派遣元のみならず、派遣先も事業主とみなされます。この場合、「雇用管理上」とあるのは、「雇用管理上及び指揮命令上」と読替えます(労働者派遣法47条の4)
高齢者の就労の増加や、医療技術の進歩等を背景に、何らかの疾患により通院しながら就業する労働者の割合は40.6%(令和4年)に上っています(令和7年版厚生労働白書 第2部第1章第7節 図表1-7-2)
今後、労働力の高齢化等により疾病リスクを抱える労働者の割合は一層増加すると見込まれ、職場において労働者の治療と仕事の両立への対応が必要となる場面はさらに増えると想定されます(前掲白書より)
厚生労働省では、治療と就業の両立支援について、次のような取り組みを行っています(前掲白書より)
- ガイドラインを公表し、企業における治療と仕事の両立支援の取組みの周知啓発を図るとともに、産業保健総合支援センターにおいて、治療と仕事の両立支援の専門家を配置し、企業支援(専門的研修・相談対応・訪問支援等)を行っている。
- また、患者である労働者に寄り添い、医療機関と企業をつなぐ役割を果たす「両立支援コーディネーター」を養成し、医療機関、企業との三者による「トライアングル型支援」の体制構築も進めている。
令和7年版の白書ですが、労一(選択式)の好みそうなキーワードが多数あります。試験対策として参考まで。
「治療と就業の両立支援指針」では、治療と就業の両立支援を行うための環境整備として、おおむね次の①~⑤の内容が定められています。
- 事業主として、治療と就業の両立支援に取り組むに当たっての基本方針を作成し、当事者やその同僚となり得る全ての労働者への周知する。
- 全ての労働者及び管理職に対して、治療と就業の両立支援に関する研修等を通じた意識啓発を行う。
- 相談窓口や申出(治療と就業の両立支援は、労働者からの申出を原則としています)が行われた場合の当該情報の取扱い等を明確にする。
- 治療と就業の両立支援に関する制度(各種の休暇制度、勤務制度の導入)、体制(事業主、上司や同僚等の関係者の役割をあらかじめ整理したり、情報提供の仕組みづくり)等の整備
- 事業場内外の連携(産業保健スタッフと連携するとともに、産業保健総合支援センターから制度導入についての支援を受けるなど)
「治療と就業の両立支援指針」そのものは、下記リンク先から確認できます。
参考資料として、主な疾病(がん、脳卒中、肝疾患、難病、心疾患、糖尿病)別の留意事項も整理されているため、実務においては参考にしてみてください。
参考|厚生労働省(外部サイトへのリンク)|治療と仕事の両立について
職場におけるパワハラ問題への対応

ここからは、職場におけるパワハラを防止するための措置を解説します。
「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されるもの」がいわゆる「パワハラ」です。
- 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
- 事業主は、労働者が①の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
- 厚生労働大臣は、①②に基づき事業主が講ずべき措置等に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針を定めるものとする。
- 厚生労働大臣は、指針を定めるに当たっては、あらかじめ、労働政策審議会の意見を聴くものとする。
- 厚生労働大臣は、指針を定めたときは、遅滞なく、これを公表するものとする。
- ④⑤は、指針の変更について準用する。
ざっくり整理すると、下記のようになります。
- 義務①により、労働者からの相談に応じるため、相談窓口の設置を義務付ける。
- 義務②により、労働者が上記の相談をしたこと、または労働者が相談に協力した際に事実を述べたことを理由として、解雇等をすることを禁止する。
- ③~⑥により、パワハラ対策についても指針が定められる。
派遣労働者についての特例
法31条1項(上記①)の適用については労働者派遣法に特例が規定されています。
具体的には、派遣労働者については派遣元のみならず、派遣先も事業主とみなされます。この場合、「雇用管理上」とあるのは、「雇用管理上及び指揮命令上」と読替えます(労働者派遣法47条の4)

パワハラの定義や典型的な例は、事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年1月15日厚労告5号。以下、パワハラ指針)で示されています。
職場におけるパワハラは、職場において行われる言動のうち、①から③までの要素を全て満たすものをいいます(パワハラ指針)
- 優越的な関係を背景とした言動
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
- 労働者の就業環境が害されるもの
(法31条1項に規定されている内容です)
留意事項としては、商品の買い取り強要等(事業主が労働者に対し、当該労働者の自由な意思に反して自社の商品・サービスを購入させる行為)に関連する言動も、上記①から③までの要素を全て満たす場合には、職場におけるパワハラに該当します(パワハラ指針)
なお、上司に限らず同僚や部下もパワハラの行為者になり得ます。また、個人に限らず集団による行為も「優越的な関係を背景とした言動」になり得ます(パワハラ指針)
事業主(雇用する労働者の数は関係ない)は、職場におけるパワハラを防止するために雇用管理上必要な措置を講じる義務があります(法31条1項)
パワハラに該当しないもの
客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワハラには該当しません(パワハラ指針)
パワハラ指針の解説は下のタブに格納しておきます。必要に応じて開閉してください。
指針の原文は厚生労働省のウェブサイト(外部リンク)で公開されています。
パワハラ指針(令和2年1月15日厚労告5号)および通達(令和8年4月24日雇均発0424第2号)から情報を整理(表現を加工して掲載)しています。
なお、このタブ内では、パワハラ指針を単に「指針」と表示しています。
- 「職場」とは、通常就業している場所以外でも、業務を遂行する場所は「職場」に含まれます(指針)
- 「労働者」とは、いわゆる正規雇用労働者のみならず、パートタイム労働者、契約社員等いわゆる非正規雇用労働者を含む事業主が雇用する労働者の全てをいいます(指針)
以降、次の①~③についての解釈です。
- 優越的な関係を背景とした言動
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
- 労働者の就業環境が害されるもの
① 優越的な関係を背景とした言動
「優越的な関係を背景とした」言動とは、当該事業主の業務を遂行するに当たって、当該言動を受ける労働者が当該言動の行為者とされる者(以下「行為者」)に対して抵抗又は拒絶することができない蓋然性(確からしさ)が高い関係を背景として行われるものを指します(指針)
指針では、①に含まれるものとして、次の例が示されています。
- 職務上の地位が上位の者による言動
- 同僚又は部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
- 同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動とは、社会通念に照らし、当該言動が明らかに当該事業主の業務上必要性がない、又はその態様が相当でないものを指します(指針)
指針では、②に含まれるものとして、次の例が示されています。
- 業務上明らかに必要性のない言動
- 業務の目的を大きく逸脱した言動
- 業務を遂行するための手段として不適当な言動
- 当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動
②の判断に当たっては、次のように留意事項が示されています(指針)
- 言動の目的、言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、当該言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性等を総合的に考慮することが適当である。
- 個別の事案における労働者の行動が問題となる場合は、その内容・程度とそれに対する指導の態様等の相対的な関係性が重要な要素となる。
「労働者の属性」とは、例えば、労働者の「経験年数」や「年齢」、「障害がある」、「外国人である」などが考えられます(令和8年4月24日雇均発0424第2号)
「心身の状況」とは、精神的または身体的な状況や疾患の有無などが考えられます(前掲通達)
なお、労働者に問題行動があった場合でも、人格を否定するような言動など業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動がなされれば、当然職場におけるパワハラに当たり得るとも示されています(前掲通達)
③ 労働者の就業環境が害されるもの
「労働者の就業環境が害される」とは、当該言動により労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指します(指針)
上記の判断に当たっては、次の解釈が示されています。
- 「平均的な労働者の感じ方」、すなわち、同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるかを基準とするのが適当である(指針)
- 言動の頻度や継続性は考慮されるが、強い身体的又は精神的苦痛を与える態様の言動の場合には、1回でも就業環境を害する場合があり得る(前掲通達)
参考|代表的な言動の類型
代表的なパワハラの類型は、個別の事案の状況等によって判断が異なる場合もあり得ること、また、限定列挙ではない前提の下で例示されています(指針)
なお、パワハラに該当すると考えられる例は、優越的な関係を背景とした言動が前提となります。
身体的な攻撃(暴行・傷害)
パワハラに該当すると考えられる例
- 殴打、足蹴りを行う
- 相手に物を投げつける
パワハラに該当しないと考えられる例
- 誤ってぶつかる
精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
パワハラに該当すると考えられる例
- 人格を否定するような言動(相手の性的指向・ジェンダーアイデンティティにに関する侮辱的な言動を含む)
- 業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行う
- 他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行う
- 相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を当該相手を含む複数の労働者宛てに送信する
パワハラに該当しないと考えられる例
- 遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して一定程度強く注意をする
- その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して、一定程度強く注意をする
人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
パワハラに該当すると考えられる例
- 自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりする
- 一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させる
パワハラに該当しないと考えられる例
- 新規に採用した労働者を育成するために短期間集中的に別室で研修等の教育を実施する
- 懲戒規定に基づき処分を受けた労働者に対し、通常の業務に復帰させるために、その前に、一時的に別室で必要な研修を受けさせる
過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
パワハラに該当すると考えられる例
- 長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずる
- 新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責する
- 労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせる
パワハラに該当しないと考えられる例
- 労働者を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せる
- 業務の繁忙期に、業務上の必要性から、当該業務の担当者に通常時よりも一定程度多い業務の処理を任せる
過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
パワハラに該当すると考えられる例
- 管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせる
- 気にいらない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えない
パワハラに該当しないと考えられる例
- 労働者の能力に応じて、一定程度業務内容や業務量を軽減する
個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
パワハラに該当すると考えられる例
- 労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりする
- 労働者の性的指向・ジェンダーアイデンティティや病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露する
パワハラに該当しないと考えられる例
- 労働者への配慮を目的として、労働者の家族の状況等についてヒアリングを行う
- 労働者の了解を得て、当該労働者の性的指向・ジェンダーアイデンティティや病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し、配慮を促す
パワハラの定義と解釈については以上です。
職場におけるパワハラを防止するために事業主が講ずべき雇用管理上の措置は、下のタブに格納しておきます。
パワハラ指針(令和2年1月15日厚労告5号)から情報を抜粋して解説しています。
なお、「職場におけるパワーハラスメント」は、単に「パワハラ」に置き換えています。
パワハラ指針によると、事業主は、パワハラを防止するため、雇用管理上の措置として次の①~④を講じなければならないとされています。
- 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
- 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
- 事後の迅速かつ適切な対応
- ①から③までの措置と併せて講ずべき措置
① 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
事業主は、パワハラに関する方針の明確化、労働者に対するその方針の周知・啓発として、次の措置を講じなければならない。
- パワハラの内容及びパワハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発する(例えば、服務規程の整備、研修の実施など)
- パワハラに係る言動を行った者については、厳正に対処する旨の方針及び対処の内容を就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書に規定し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発する(例えば、懲戒の対象となる旨を明確化して周知するなど)
② 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
事業主は、労働者からの相談に対し、その内容や状況に応じ適切かつ柔軟に対応するために必要な体制の整備として、次の措置を講じなければならない。
- 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知する。
- 相談窓口の担当者が、相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できるようにする(例えば、相談窓口の担当者への研修の実施など)
例えば、放置すれば就業環境を害するおそれがある場合や、労働者同士のコミュニケーションの希薄化などの職場環境の問題が原因や背景となってパワハラが生じるおそれがある場合等が考えられる。
そのため、相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも配慮しながら、広く相談に対応し、適切な対応を行うようにすること。
③ 職場におけるパワハラに係る事後の迅速かつ適切な対応
事業主は、職場におけるパワハラに係る相談の申出があった場合において、その事案に係る事実関係の迅速かつ正確な確認及び適正な対処として、次の措置を講じなければならない。
- 事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認する。
- パワハラが生じた事実が確認できた場合においては、速やかに被害を受けた労働者に対する配慮のための措置を適正に行う。
- パワハラが生じた事実が確認できた場合においては、行為者に対する措置を適正に行う。
- パワハラに関する方針を周知・啓発する等の再発防止に向けた措置を講ずること。なお、職場におけるパワハラが生じた事実が確認できなかった場合においても、同様の措置を講ずる。
④ ①から③までの措置と併せて講ずべき措置
①から③までの措置を講ずるに際しては、併せて次の措置を講じなければならない。
なお、相談者・行為者等のプライバシーには、性的指向・ジェンダーアイデンティティや病歴、不妊治療等の機微な個人情報も含まれる。
- 相談への対応又は当該パワハラに係る事後の対応に当たっては、相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるとともに、その旨を労働者に対して周知する。
- 労働者がパワハラに関し相談をしたこと若しくは事実関係の確認等の事業主の雇用管理上講ずべき措置に協力したこと、都道府県労働局に対して相談、紛争解決の援助の求め若しくは調停の申請を行ったこと又は調停の出頭の求めに応じたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発する。
参考|行うことが望ましい取組
当該事業主が雇用する労働者又は当該事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)が行うパワハラを防止するため、①~④の措置に加え、次の取組を行うことが望ましい。
- セクハラ等の相談窓口と一体的に職場におけるパワハラの相談窓口を設置するなど、一元的に相談に応じられる体制を整備する。
- パワハラの原因や背景となる要因を解消するため、次の取組を行う。
- コミュニケーションの活性化や円滑化のための研修等(*補1)
- 適正な業務目標の設定等の職場環境の改善のための取組(*補2)
- ①~④の措置を講じる際に、必要に応じて、労働者や労働組合等の参画を得つつ、アンケート調査や意見交換等を実施するなどにより、その運用状況の的確な把握や必要な見直しの検討等に努める。
(*補1)例えば、風通しの良い職場環境を築くために面談やミーティングを実施したり、感情をコントロールする手法についての研修を実施するなど。
(*補2)例えば、労働者に過度に肉体的・精神的負荷を強いる職場環境や組織風土を改善するなど。
参考|自らの雇用する労働者以外の者に対する言動に関し行うことが望ましい取組
パワハラを行ってはならない旨の方針の明確化等を行う際に、当該事業主が雇用する労働者以外の者(他の事業主が雇用する労働者、就職活動中の学生等の求職者など)に対する言動についても、同様の方針を併せて示すこと。
パワハラ問題への対応は以上です。
職場におけるカスハラ問題への対応

「顧客等言動」とは、職場において行われる顧客等の言動であって、その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものをいいます(法33条1項)
いわゆるカスハラ(カスタマーハラスメント)です。
カスハラ対策については、パワハラについての指針にて「行うことが望ましい取組」と示されるに留まっていました。
その後、労働施策総合推進法の改正により、雇用管理上の措置を実施しなければならない旨の規定(義務)が整備されました(令和8年10月1日施行)
「顧客等」とは、顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者をいいます(法33条1項)
(顧客等には、今後顧客等になる可能性のある者も含まれます。詳細は後述のカスハラ指針をご参照ください)
- 事業主は、職場において行われる顧客等の言動であって、事業主の雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたもの(顧客等言動という)により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、労働者の就業環境を害する当該顧客等言動への対応の実効性を確保するために必要なその抑止のための措置その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
- 事業主は、労働者が①の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
- 事業主は、他の事業主から当該他の事業主が講ずる①の措置の実施に関し必要な協力を求められた場合には、これに応ずるように努めなければならない。
- 厚生労働大臣は、①~③に基づき事業主が講ずべき措置等に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針を定めるものとする。
- 法31条4項(あらかじめ労働政策審議会の意見を聴く)及び5項(遅滞なく公表する)の規定は、指針の策定及び変更について準用する。
ざっくり整理すると、次のようになります。
- 義務①により、労働者からの相談に応じるため、相談窓口の設置を義務付ける。
- 義務②により、労働者が上記の相談をしたこと、または労働者が相談に協力した際に事実を述べたことを理由として、解雇等をすることを禁止する。
- 努力義務③により、他の事業主が実施するカスハラ対策への協力を求められた場合は、これに応じるよう努める。
- ④及び⑤により、カスハラ対策についても指針が定められる。
①②はパワハラ対策と同じく義務です。
一方、③は努力義務ですが、パワハラ対策にはなかった取扱いです(男女雇用機会均等法における労働者へのセクハラ対策と同じ構成です)
派遣労働者についての特例
法33条1項(上記①)の適用については労働者派遣法に特例が規定されています。
具体的には、派遣労働者については派遣元のみならず、派遣先も事業主とみなされます。この場合、「雇用管理上」とあるのは、「雇用管理上及び指揮命令上」と読替えます(労働者派遣法47条の4)

カスハラの定義や典型的な例は、事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年2月26日厚労告51号。以下、カスハラ指針)で示されています。
職場におけるカスハラは、職場において行われる言動のうち、①から③までの要素を全て満たすものをいいます(カスハラ指針)
- 顧客等の言動
- 事業主の雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたもの
- 労働者の就業環境が害されるもの
(法33条1項に規定されている内容です)
留意事項としては、対面のみならず、電話、SNS等のインターネット上で行わる場合もカスハラに含まれます(カスハラ指針)
例えば、SNS等のインターネット上で行われるものを労働者が自宅で確認した場合や、文書等の紙媒体が労働者の自宅に送付され、それを労働者が確認した場合についても、「職場」で生じた事象を契機とするものであって、労働者の就業環境が害されると認められる場合には、職場におけるカスハラに含まれる可能性があります(令和8年4月24日雇均発0424第2号)
事業主(雇用する労働者の数は関係ない)は、職場におけるカスハラを防止するために雇用管理上必要な措置を講じる義務があります(法33条1項)
カスハラに該当しないもの
上記②を満たす必要があるため、顧客等からの苦情であっても、下記の言動はカスハラに当りません(カスハラ指針)
- 顧客等からの苦情であっても、社会通念上許容される範囲で行われたもの(いわば正当な申入れです)
- 障害者から労働者に対して、障害者差別解消法で禁止されている不当な差別的取扱いをしないよう求めることや、社会的障壁の除去を必要としている旨の意思を表明すること(実施に伴う負担が過重でないときは、社会的障壁の除去について必要かつ合理的な配慮が必要です)
指針の解説は下のタブに格納しておきます。必要に応じて開閉してください。
試験対策として要点だけ掴みたい場合は、厚生労働省のリーフレット(外部リンク)が参考になります(指針の原文も当該リンク先で公開されています)
カスハラ指針(令和8年2月26日厚労告51号)から情報を整理(表現を加工して掲載)しています。
なお、このタブ内では、カスハラ指針を単に「指針」と表示しています。
- 「職場」とは、通常就業している場所以外でも、業務を遂行する場所は「職場」に含まれます。取引先の事務所、取引先と打合せをするための飲食店、顧客の自宅等でも、労働者が業務を遂行する場所であれば職場に該当します。
- 「労働者」とは、いわゆる正規雇用労働者のみならず、パートタイム労働者、契約社員等いわゆる非正規雇用労働者を含む事業主が雇用する労働者の全てをいいます。
以降、次の①~③についての解釈です。
- 顧客等の言動
- 事業主の雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたもの
- 労働者の就業環境が害されるもの
① 顧客等の言動
「顧客等」とは、顧客(今後商品の購入やサービスの利用等をする可能性がある潜在的な顧客も含む)、取引の相手方(今後取引する可能性のある者も含む)、施設の利用者(駅、空港、病院、学校、福祉施設、公共施設等の施設を利用する者をいい、今後利用する可能性のある者も含む)その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者をいいます。
顧客等の例として、下記の者が示されています。
- 事業主が販売する商品の購入やサービスの利用をする者
- 事業主の行う事業に関する内容等に関し問い合わせをする者
- 取引先の担当者
- 企業間での契約締結に向けた交渉を行う際の担当者
- 施設・サービスの利用者及びその家族
- 施設の近隣住民
② 社会通念上許容される範囲を超えたもの
「その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えた」言動とは、社会通念に照らし、当該顧客等の言動の内容が契約内容からして相当性を欠くもの、又は手段や態様が相当でないものを指します。
「言動の内容」及び「手段や態様」に着目し、様々な要素(言動の目的、労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況、労働者の属性や心身の状況など)を総合的に判断することが適当です。
また、「言動の内容」、「手段や態様」の一方のみが社会通念上許容される範囲を超える場合でもこれに該当し得ることに留意が必要です。
指針では、②に含まれる典型的な例(限定列挙ではない)として、下記が示されています。
- 言動の内容が社会通念上許容される範囲を超えるもの
- そもそも要求に理由がない又は商品・サービス等と全く関係のない要求(労働者のプライバシーに関わる要求など)
- 契約等により想定しているサービスを著しく超える要求
- 対応が著しく困難な又は対応が不可能な要求(契約金額の著しい減額要求など)
- 不当な損害賠償要求
- 手段や態様が社会通念上許容される範囲を超えるもの
- 身体的な攻撃(暴行、傷害等)
- 精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要等)
- 威圧的な言動
- 継続的、執拗な言動
- 拘束的な言動(不退去、居座り、監禁)
ちなみに、精神的な攻撃の典型的な例としては、下記が示されています。
- 店舗の物を壊すことをほのめかす発言やSNS等のインターネット上へ悪評を投稿することをほのめかす発言によって労働者を脅す。
- SNS等のインターネット上へ労働者のプライバシーに係る情報の投稿等をする。
- 労働者の人格を否定するような言動(相手の性的指向・ジェンダーアイデンティティに関する侮辱的な言動含む)を行う。
- 土下座を強要する。
- 盗撮や無断での撮影をする。
- 労働者の性的指向・ジェンダーアイデンティティ等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の者に暴露する又は当該労働者が開示することを強要する若しくは禁止する。
③ 労働者の就業環境が害されるもの
「労働者の就業環境が害される」とは、当該言動により労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指します。
③の判断に当たっては、次の解釈が示されています。
- 「平均的な労働者の感じ方」、すなわち、同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるかを基準とするのが適当である。
- 言動の頻度や継続性は考慮されるが、強い身体的又は精神的苦痛を与える態様の言動の場合には、1回の言動でも、③に該当する場合があり得る。
カスハラの定義と解釈については以上です。
職場におけるカスハラを防止するために事業主が講ずべき雇用管理上の措置は、下のタブに格納しておきます。
カスハラ指針(令和8年2月26日厚労告51号)から情報を抜粋して、整理(表現を加工して掲載)しています。
なお、「職場におけるカスタマーハラスメント」は、単に「カスハラ」に置き換えています。
カスハラ指針によると、事業主は、カスハラを防止するため、雇用管理上の措置として次の①~⑤を講じなければならないとされています。
- 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
- 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
- 事後の迅速かつ適切な対応
- カスハラの抑止のための措置
- ①から④までの措置と併せて講ずべき措置
ただし、カスハラ対策を講ずる際は、消費者法制により定められている消費者の権利や、障害者差別解消法において、障害を理由とする不当な差別的取扱いの禁止や合理的配慮の提供義務が定められていることに留意する必要がある。
また、各業法等によりサービス提供の義務等が定められている場合やサービスが途絶すると顧客等の生命や心身の健康に重大な影響が及ぶ場合等があることに留意して適切に対応する必要がある。
① 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
事業主は、カスハラに関する方針の明確化、労働者に対するその方針の周知・啓発として、次の措置を講じなければならない。
- カスハラには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発する(例えば、社内報、自社HPに当該方針を掲載したり、研修を実施するなど)
- カスハラについて、その内容及びあらかじめ定めたそれへの対処の内容を、管理監督者を含む労働者に周知する(例えば、顧客等への対応マニュアルにカスハラの内容及びそれへの対処の内容を記載し、労働者に周知するなど)
下段における「カスハラへの対処の内容」の例としては、次のようなものがある。ただし、次の例は限定列挙ではなく、各事業主が、労働者の状況等の実態に応じた対処の内容を定めること。
- 労働者から管理監督者等に直ちに報告し、その場の対応の方針について指示を仰ぐ。
- 可能な限り労働者を一人で対応させないこと。また、必要に応じて当該労働者に代わって管理監督者等が対応する。
- 顧客等とのやり取りを録音・録画すること。なお、録音・録画に当たっては個人情報保護法等を遵守し、顧客等の個人情報を適切に取り扱うこと。
- 労働者から十分な説明を行った上で、なお繰り返しの要求が続く場合には、一定の時間の経過をもって退店を求めたり、電話を切ったりする。
- 暴行、傷害、脅迫などの犯罪に該当し得る言動については、警察へ通報する。
- 現場対応が困難な場合においては、本社・本部等へ情報共有を行い、指示を仰ぐ。
- 法的な手続が必要な場合には、法務部門等と連携し、弁護士へ相談する。
② 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
事業主は、労働者からの相談に対し、その内容や状況に応じ適切かつ柔軟に対応するために必要な体制の整備として、次の措置を講じなければならない。
- 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知する。
- 相談窓口の担当者が、相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること(例えば、相談窓口の担当者への研修の実施など)
例えば、放置すれば就業環境を害するおそれがある場合が考えられる。
そのため、相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも配慮しながら、広く相談に対応し、適切な対応を行うようにすること。
③ 事後の迅速かつ適切な対応
事業主は、カスハラに係る相談の申出があった場合において、その事案に係る事実関係の迅速かつ正確な確認及び適正な対処として、次の措置を講じなければならない。
- 事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認する。
- カスハラが生じた事実が確認できた場合においては、速やかに被害を受けた労働者(被害者)に対する配慮のための措置を適正に行う(例えば、事案の内容や状況に応じ、管理監督者等が被害者に代わって対応するなど)
- カスハラに関する方針を周知・啓発し、その再発防止に向けた措置を講ずること。なお、カスハラが生じた事実が確認できなかった場合においても、同様の措置を講ずる。
④ カスハラの抑止のための措置
事業主は、カスハラの抑止のための措置として、労働者に対し過度な要求を繰り返すなど特に悪質と考えられるものへの対処の方針をあらかじめ定め、管理監督者を含む労働者に周知するとともに、当該方針において定めた対処を行うことができる体制を整備しなければならない。
なお、「特に悪質と考えられるものへの対処」の例としては次のようなものがある。
- 暴行、傷害、脅迫などの犯罪に該当し得る言動については、警察へ通報する。
- 行為者に対して警告文を発出する。
- 法令の制限内において行為者に対して商品の販売、サービスの提供等をしない。
- 行為者に対して店舗及び施設等への出入りを禁止する。
- 民事保全法に基づく仮処分命令を申し立てる。
⑤ ①から④までの措置と併せて講ずべき措置
①から④までの措置を講ずるに際しては、併せて次の措置を講じなければならない。
なお、相談者等のプライバシーには、性的指向・ジェンダーアイデンティティ等の機微な個人情報も含まれる。
- 相談への対応又は当該カスハラに係る事後の対応に当たっては、相談者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるとともに、その旨を労働者に対して周知する。
- 労働者がカスハラに関し相談をしたこと若しくは事実関係の確認等の事業主の雇用管理上講ずべき措置に協力したこと、都道府県労働局に対して相談、紛争解決の援助の求め若しくは調停の申請を行ったこと又は調停の出頭の求めに応じたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発する。
参考|行うことが望ましい取組
事業主は、カスハラを防止するため、①~⑤の措置に加え、次の取組を行うことが望ましい。
- カスハラの原因や背景となる要因を解消するため、次の取組を行う。
- 労働者が自社の商品やサービスをよく理解し、顧客等への対応力の向上を図るための研修等
- 労働者が顧客等への理解を深めるために必要な取組(例えば、消費者の心理や障害特性等についての資料の配布や研修の実施など)
- ①~⑤の措置を講じる際に、必要に応じて、労働者や労働組合等の参画を得つつ、アンケート調査や意見交換等を実施するなどにより、その運用状況の的確な把握や必要な見直しの検討等に努める。
- 業種・業態等における被害の実態や業務の特性等を踏まえて、それぞれの状況に応じた必要な取組を進める(*補3)
- 事業主(法人の場合は、その役員)自らと労働者についても、他の事業主が雇用する労働者へカスハラを行ってはならない旨の方針を示す。
(*補3)例えば、同じ業種・業態等の複数の事業主が一体となって、カスタマーハラスメントに関するポスター等の掲示物を作成したり、カスタマーハラスメントへの対応に関するマニュアルを策定したりすることや、所属する業界団体がマニュアルを策定する際に協力すること等の取組が考えられる(令和8年4月24日雇均発0424第2号)
参考|自らの雇用する労働者以外の者に対する言動に関し行うことが望ましい取組
カスハラを行ってはならない旨の方針の明確化等を行う際に、当該事業主が雇用する労働者以外の者(*補4)に対する言動についても、同様の方針を併せて示すことが望ましい。
(*補4)例えば、当該事業主の小売店にて、商品販売のために勤務している「他の事業主が雇用する労働者」、「個人事業主」などに対するカスハラも防止する趣旨(厚生労働省のリーフレットを参照)
カスハラ問題への対応は以上です。
責務、紛争の解決
最後に、労働施策総合推進にて定められている「責務」、「紛争の解決方法」を解説します。

労働施策総合推進法の特徴としては、顧客等に対しても責務(顧客等言動問題に係る責務)が規定されています。
なお、読みにくい場合は、優越的言動問題を「パワハラ問題」と、顧客等言動問題を「カスハラ問題」と読替えてください。
国の責務
- 国は、優越的言動問題に対する事業主その他国民一般の関心と理解を深めるため、広報活動、啓発活動その他の措置を講ずるように努めなければならない(法32条1項)
- 国は、顧客等言動問題に対する事業主その他国民一般の関心と理解を深めるため、各事業分野の特性を踏まえつつ、広報活動、啓発活動その他の措置を講ずるように努めなければならない(法34条1項)
事業主の責務
- 事業主は、優越的言動問題に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる措置に協力するように努めなければならない(法32条2項)
- 事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)は、自らも、優越的言動問題に対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない(法32条3項)
- 事業主は、顧客等言動問題に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の事業主が雇用する労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる措置に協力するように努めなければならない(法34条2項)
- 事業主(法人の場合は、その役員)は、自らも、顧客等言動問題に対する関心と理解を深め、他の事業主が雇用する労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない(法34条3項)
労働者の責務
- 労働者は、優越的言動問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる雇用管理上必要な措置に協力するように努めなければならない(法32条4項)
- 労働者は、顧客等言動問題に対する関心と理解を深め、他の事業主が雇用する労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる雇用管理上必要な措置に協力するように努めなければならない(法34条4項)
顧客等の責務
- 顧客等は、顧客等言動問題に対する関心と理解を深めるとともに、労働者に対する言動が当該労働者の就業環境を害することのないよう、必要な注意を払うように努めなければならない(法34条5項)

次の①~④についての労働者と事業主との間の紛争には、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律に基づく助言、指導、あっせんは行われません(法35条)
- 法31条1項(職場におけるパワハラを防止するための雇用管理上必要な措置)
- 法31条2項(パワハラの相談をしたこと又は事実を述べたことを理由とする解雇その他不利益な取扱いの禁止)
- 法33条1項(職場におけるカスハラを防止するための雇用管理上必要な措置)
- 法33条2項(カスハラの相談をしたこと又は事実を述べたことを理由とする解雇その他不利益な取扱いの禁止)
都道府県労働局長は、上記①~④についての紛争に関し、紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、紛争の当事者に対し、労働施策総合推進法に基づいて、必要な助言、指導、勧告をすることができます(法36条1項)
また、都道府県労働局長は、上記①~④についての紛争特例対象の紛争について、紛争の当事者の双方又は一方から調停の申請があった場合において当該紛争の解決のために必要があると認めるときは、紛争調整委員会に調停を行わせる(委任する)ことになっています(法37条1項)
なお、労働者が都道府県労働局長の援助を求めたり、調停の申請をしたことを理由として、事業主が当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをすることは禁止されています(法36条2項、37条2項)
(労働施策総合推進法では、自主的解決の努力義務は規定されていません)
対象となる紛争の事由は異なりますが、男女雇用機会均等法と趣旨は同じです(こちらで解説しています)
解説は以上です。
指針にて示されている例は限定列挙ではないため、試験勉強としても暗記までは求められないでしょう。
既出の論点(テキストに載っている範囲、過去問の範囲)を優先して学習してください。
実務につきましては、厚生労働省が公開しているマニュアルなども参考にしてみてください。
参考|求職活動等におけるセクハラ問題
求職活動等において行われる性的な言動(求職活動中の学生へのセクハラなど)については、パワハラ指針にて「行うことが望ましい取組」と示されるに留まっていました。
その後、男女雇用機会均等法の改正により、雇用管理上の措置を実施しなければならない旨の規定が整備されました(令和8年10月1日施行)
具体的には、こちらで解説しています。
(参考資料等)
厚生労働省|厚生労働省法令等データベースサービスより|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kensaku/index.html
- 労働施策総合推進法
- 令和2年1月15日厚生労働省告示5号(事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針)
- 令和8年2月10日厚生労働省告示28号(治療と就業の両立支援指針)
- 令和8年2月26日厚生労働省告示51号(事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針)
- 平成19年8月3日厚生労働省告示278号(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律施行規則第一条の三第一項第三号ロの規定に基づき厚生労働大臣が定める条件)
厚生労働省|募集・採用における年齢制限禁止について|
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/topics/tp070831-1.html
厚生労働省|正規雇用労働者の中途採用比率の公表|
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/tp120903-1_00001.html
厚生労働省|「再就職援助計画」と「大量離職届・大量離職通知書」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/other36/index.html
厚生労働省|外国人雇用状況の届出について|
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/gaikokujin/todokede/index.html
厚生労働省|職場におけるハラスメントの防止のためにより|
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html
- 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律第10章の規定等の運用について(通達)
- ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について(Q&A)
厚生労働省|令和7年版厚生労働白書
https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/25/index.html

