社労士試験の独学|健康保険法|療養費

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まえがき

この記事では、健康保険法における療養費について解説しています。

社会保険労務士試験の独学、労務管理担当者の勉強などに役立てれば嬉しいです。

なお、次の保険給付の解説はそれぞれ下記リンク先ご参照ください。

  • 療養の給付(解説
  • 入院時食事(生活)療養費(解説
  • 保険外併用療養費(解説

記事中の略語はそれぞれ次の意味で使用しています。

  • 法 ⇒ 健康保険法
  • 則 ⇒ 健康保険法施行規則
  • 保険者 ⇒ 協会けんぽ及び各健康保険組合

当記事は条文等の趣旨に反するような極端な意訳には注意しております。ただし、厳密な表現と異なる部分もございます。詳しくは免責事項をご確認ください。

療養費

  • 概要
  • 療養費の支給要件
  • 療養費の額

概要

現金給付(償還払い)の概念図

療養の給付、入院時食事療養費、入院時生活療養費、保険外併用療養費の支給を総称して「療養の給付等」といいます(法87条1項)

ちなみに、訪問看護療養費は「療養の給付等」に含まれません。

また、移送費(法97条の保険給付)も「療養の給付等」に含まれません。

療養費は、やむを得ない事情などで療養の給付等(現物給付)を受けられない場合に、現金給付(償還払い)として支給されます。

例えば、被保険者の資格取得の手続き中に病院で診察を受けたとしましょう。

療養の給付等を受けるためには、病院から「被保険者であることの確認」を受ける必要があります(法63条3項ほか)

今回の例では、資格取得の手続き中のため、病院で「被保険者であることの確認」を受けられません。

そのため、被保険者は、現物給付である療養の給付等を受けられないため、自費(10割負担)で診察を受けます。

その後、資格取得の手続きが完了し被保険者が保険者に対して申請すると、上記診察に要した費用のうち7割(2割負担の場合は8割)に相当する部分が「療養費」として支給されます(同旨 昭和3年4月30日保理1089号)

この立替払いの仕組みが、現金給付又は償還払いと呼ばれるものです。


療養費の支給要件

療養費の支給要件

療養費は、次の①②いずれかに該当した場合に、療養の給付等に代えて支給することができます(法87条1項)

  • 療養の給付等を行うことが困難であると保険者が認めるとき
  • 被保険者が保険医療機関等以外の病院、診療所、薬局その他の者から診療、薬剤の支給若しくは手当を受けた場合において、保険者がやむを得ないものと認めるとき

細かい論点ですが、①②の状態にあるか認めるのは「保険者」です。また、療養費を支給「しなければならない」ではなく「できる」旨の規定です。


療養費の額

療養費の額の算定

療養費の額は、次の①~③を基準に保険者が定めます(法87条2項)

  • 療養(食事療養及び生活療養を除く)について算定した費用の額から、その額に一部負担金の割合を乗じて得た額を控除した額
  • 食事療養について算定した費用の額から食事療養標準負担額を控除した額
  • 生活療養について算定した費用の額から生活療養標準負担額を控除した額

①〜③における費用の額の算定については、療養の給付等についての費用の例によります。ただし、その額は、現に療養に要した費用の額は超えられません(法87条3項)

上記①~③を基準に療養費の額を定めるため、病院等の窓口で支払った額の7割(又は8割)が戻ってくるとは限りません。


療養費についての事例

療養費の事例をいくつか解説します。

なお、柔道整復、はり、きゅう、マッサージ、治療用装具については後述します。

海外療養費

  • 海外療養とは、海外で受けた診療、薬剤の支給又は手当をいいます(則66条4項)
  • 海外療養についての費用に係る療養費(又は家族療養費)を「海外療養費」といいます。

(被扶養者が受けた海外療養については、家族療養費として、海外療養費の対象となります)

海外療養費も保険給付の種類としては療養費(又は家族療養費)ですので、療養費の支給要件を満たす必要があります(家族療養費の現金給付については、療養費の規定が準用されています)

例えば、日本在住のため日本で療養の給付等を受けられるにもかかわらず、好んで海外で診察等を受けた場合は、「療養の給付等を行うことが困難である」には該当しないでしょう。

一方、海外旅行中の急な病気やけがなどにより、現地の医療機関で診療等を受けた場合は、「保険医療機関等以外から診察等を受けても、やむを得ない」に該当するでしょう。

海外療養費の支給額

留意事項としては、保険適用の範囲や診察等の費用(診察等の点数)は、海外で受けた診療等であっても、現地の基準ではなく日本の健康保険の基準で算定します(ただし、海外で請求された実際の費用の額は超えられません)。このように、現地で受けた診察等の費用を日本の基準で計算し直した額から、一部負担金等を差し引いて、海外療養費の支給額を定めます。

(海外療養費の申請については後述します)

また、臓器移植に係る海外療養費については、次のいずれも満たす場合には、海外療養費の支給が認められる「やむを得ない」に該当するとされています(平成29年12月22日保保発1222第2号)

  • 臓器移植を必要とする被保険者等がレシピエント適応基準(移植を受ける人の基準)に該当し、海外渡航時に日本臓器移植ネットワークに登録している
  • 当該被保険者等が移植を必要とする臓器に係る、国内における待機状況を考慮すると、海外で移植を受けない限りは生命の維持が不可能となる恐れが高い

(上記通達は、被保険者及び被扶養者の臓器移植についての取扱いとなるため、被保険者等となっています)

移送との関係

(移送費そのものは、別の記事で解説します)

被保険者が療養の給付(保険外併用療養費に係る療養を含む)を受けるため、病院又は診療所に移送されたときは、保険者が必要であると認める場合に限り、移送費が支給されます(法97条)

移動が著しく困難な被保険者(患者)の移送(災害現場から医療機関への緊急搬送、臓器移植のために緊急の転院を必要とする場合など)にかかる費用や、医学的管理の必要により医師や看護師等が移送に付き添うための交通費は、「移送費」の対象です。

(移送費は、療養の給付等又は療養費とは別に支給されます)

一方、次の①~③については、「療養費」の対象となります(①②については平成29年12月22日事務連絡 臓器移植に係る療養費及び移送費の取扱いに係るQ&Aの送付について、③については平成6年9月9日保険発119号)

  • 臓器等採取を行う医師の派遣に要した費用(海外におけるケースも同様に療養費の対象)
  • 臓器等の搬送に要した費用(海外におけるケースも同様に療養費の対象)
  • 「移送費の支給が認められる医師、看護師等の付添人による医学的管理等」について、患者がその医学的管理等に要する費用を支払った場合の当該費用

①②については、①②の費用を移送費の算定基準により算定し、その算定額から一部負担金を差し引いた額を基準として、あくまで「療養費」として支給されます。

(①②は患者の移送ではなく、①医師の派遣と②臓器の搬送です。①②そのものに移送費は支給されません)

③については、現に要した③の費用の額の範囲内で、移送費とは別に、診療報酬に係る基準を勘案して評価し、療養費の支給を行うことができます。

(患者の移送中に行われた医療について立替払いをしたケースは③の療養費の対象です。一方、患者の移送中に医療を行う付添人のための交通費や、患者の移送そのものの費用は移送費の対象です)

保険医との関係

厚生労働大臣の登録を受けた医師、歯科医師を総称して「保険医」といいます。また、厚生労働大臣の登録を受けた薬剤師を「保険薬剤師」といいます(法64条)

  • その地方に保険医がいない場合、又は保険医はいてもその者が傷病等のために診療に従事できない場合には、療養費の支給は認められる(昭和24年6月6日保文発1017号)
  • 他に適当な保険医がいるにもかかわらず、好んで保険医以外の医師について診療又は手当を受けた場合(例えば、保険医の評判が良くないから保険診療を回避した場合)は、療養費は支給しない(前掲通達)
  • 保険医のいない地域において医師の診察を受けられず市販薬を使った場合、又は医師の往診を得るまでに数日かかるため緊急に(応急措置として)市販薬を服用した場合など、諸般の状況により療養の給付等を行うことが困難であると保険者が認めるときは、療養費の支給対象となる(同旨 昭和13年8月20日社庶1629号)

輸血

社労士試験で出題されているため、輸血について触れておきます。

輸血の取扱いは、次のように分かれます(同旨 昭和14年5月13日社医発336号)

  • 保存血による輸血(献血に由来する医薬品としての血液を輸血する方法)は、療養の給付(現物給付)として行われます。
  • 生血による輸血(保存血が病院にないなどの緊急事態により、血液の提供者から直接採血して患者へ輸血する方法)は、療養費の支給対象となります(血液の代金を支払って、後日療養費として清算します)

なお、下段の取扱いには留意事項があります。

現在では、「院内で採血された血液(以下「院内血」という。)の輸血については,供血者の問診や採血した血液の検査が不十分になりやすく、また供血者を集めるために患者や家族などに精神的・経済的負担をかけることから、日本赤十字社の血液センターからの適切な血液の供給体制が確立されている地域においては、特別な事情のない限り行うべきではない。」とされています(輸血療法の実施に関する指針)

参考|厚生労働省(外部サイトへのリンク)|「輸血療法の実施に関する指針」(改定版)


療養費の支給申請

療養費の支給申請

ここからは、療養費を請求する際の手続きを解説します。

  • 被保険者は、一定の事項を記載した申請書(療養費支給申請書)を保険者に提出します(則66条1項)
  • ①の申請書には、療養に要した費用の額を証する書類(診療明細書及び領収明細書など)を添付する必要があります(則66条2項)

また、疾病又は負傷が第三者行為によるときは、その事実並びに第三者の氏名及び住所又は居所(氏名又は住所若しくは居所が明らかでないときは、その旨)の記載が必要です(則66条1項9号)

添付書類については、受けた療養の内容によっても異なるため、各保険者における取扱いをご確認ください。


海外療養費

療養費支給申請書|添付書類

海外療養費については、療養費支給申請書に次に掲げる書類も添付しなければなりません(則66条4項)

  • 旅券、航空券その他の海外に渡航した事実が確認できる書類の写し
  • 保険者が海外療養の内容について当該海外療養を担当した者に照会することに関する当該海外療養を受けた者の同意書

また、療養に要した費用の額を証する書類(直前の②)が外国語で作成されている場合は、その書類(原本)に日本語の翻訳文も添付する必要があります(則66条3項)

その他の留意事項としては、通達にて次の取扱いが示されています(昭和56年2月25日保険発10号)

  • 日本語の翻訳文には、翻訳者の氏名及び住所も記載します。
  • 海外療養費の支給額の算定に用いる邦貨換算率は、支給決定日の外国為替換算率(売レート)を用います(外貨で支払われた医療費を円に換算して支給額を算出します)
  • 海外療養費の支給は、海外への直接送金はできません(海外勤務で日本の銀行口座が使えない場合は、事業主や日本在住の家族などを受取代理人とします)
  • 現に海外にいる被保険者からの海外療養費の申請は、原則として、事業主等を経由して行います。また、当該申請についての照会は、事業主等を経由して行います。

海外療養費の不正請求対策については、下記通達をご参照ください。

参考|厚生労働省(外部サイトへのリンク)|海外療養費の不正請求対策等について


申出期限(時効)

療養費|請求権の時効

保険給付を受ける権利は、これらを行使することができる時から2年を経過したときは、時効によって消滅します(法193条)

療養の給付等は現物給付として行われるため、(被保険者の視点からは)時効の問題は生じません。

(療養の給付等は、一部負担金等を支払って診察等を受けたため、患者にとってはすでに保険給付は完結しています)

一方、療養費は「療養費支給申請書」を提出して行われるため、申請期限という時効の問題が生じます(他の現金給付も同様です)

なお、療養費の請求権の消滅時効は、療養に要した費用を支払った日の翌日から起算します(昭和31年3月13日保文発1903号)

(10割支払ったから7割の現金給付を受けられるため、10割支払っていない間は保険給付を受ける権利を行使できません)

例えば、療養に要した費用を令和7年11月25日に支払った場合は、療養費を請求できる期間は令和9年11月25日まで(*1)となり、令和9年11月26日(*2)になると請求できません(法194条、民法143条)

(*1)令和7年11月26日から起算して2年を経過する日(11月26日の2年後の応当日の前日)まで

(*2)令和7年11月26日から起算して2年を経過した日(経過する日の翌日)


柔道整復等

療養費|柔道整復等

最後に、次の施術等に係る療養費を解説します。

  • 柔道整復師から施術を受けた場合
  • はり師、きゅう師及びあん摩・マッサージ・指圧師の施術を受けた場合
  • 治療用装具(治療行為のために必要な義手・義足、義眼、コルセット、弾性ストッキングや、小児弱視等の治療用眼鏡など)を購入し装着した場合

上記①〜③も一定の要件を満たすと療養費の支給対象です。

実際問題としては、①②については、受領委任制度(*3)を利用できる場合があります。

(*3)登録された施術者が患者に代わり療養費を保険者に請求することで、患者は3割(又は2割)負担で施術を受けられる仕組みです。

なお、上記①~③であっても、それぞれの施術等に定められた療養費の支給要件(支給対象となる疾病や、装具を装着するまでの流れ等)を満たさない場合は、全額自己負担となります。

以降、あん摩・マッサージ・指圧を総称してマッサージと表記しています。


柔道整復

療養費|柔道整復

主な留意事項を整理しておきます(平成9年4月17日保険発57号)

  • 療養費の支給対象となる負傷は、外傷性が明らかな骨折、脱臼、打撲及び捻挫であり、内科的原因による疾患は含まれない。なお、筋又は腱の断裂(いわゆる肉ばなれをいい、挫傷を伴う場合もある。)については、打撲の部の所定料金により算定して差し支えない。
  • 骨折、脱臼、打撲及び捻挫に対する施術料は、膏薬、湿布薬等を使用した場合の薬剤料、材料代等を含む。
  • 単なる肩こり、筋肉疲労に対する施術は、療養費の支給対象外である。
  • 柔道整復の治療を完了して単にマッサージのみの治療を必要とする患者に対する施術は支給対象としない。
  • 脱臼又は骨折に対する施術については、医師の同意を得たものでなければならない。また、応急手当をする場合はこの限りではないが、応急手当後の施術は医師の同意が必要である。
  • 医師の同意は個々の患者が医師から得てもよく、又施術者が直接医師から得てもよいが、いずれの場合であっても医師の同意は患者を診察した上で書面又は口頭により与えられる必要がある。なお、実際に医師から施術につき同意を得た旨が施術録に記載してあることが認められ、支給申請書の「摘要」欄に付記されていれば、必ずしも医師の同意書の添付を要しない。また、施術につき同意を求める医師は、必ずしも整形外科、外科等を標榜する医師に限らない。
  • 現に医師が診療中の骨折又は脱臼については、当該医師の同意が得られている場合のほかは、施術を行ってはならない。ただし、応急手当をする場合はこの限りでない。
  • 「既に保険医療機関での受診又は他の施術所での施術を受けた患者」及び「受傷後日数を経過して受療する患者」に対する施術については、現に整復、固定又は施療を必要とする場合に限り初検料、整復料、固定料又は施療料を算定できる。なお、整復、固定又は施療の必要がない場合は、初検料、後療料等により算定する。
  • 保険医療機関に入院中の患者の後療を医師から依頼された場合の施術は、当該保険医療機関に往療した場合、患者が施術所に出向いてきた場合のいずれであっても、支給対象としない。

はり、きゅう、マッサージ

療養費|はり・きゅう、マッサージ

主な留意事項を整理しておきます(平成16年10月1日保医発1001002号)

はり、きゅう

  • はり、きゅうの施術に係る療養費の支給対象となる疾病は、慢性病であって医師による適当な治療手段のないものであり、主として神経痛・リウマチなどであって類症疾患については、これら疾病と同一範ちゅうと認められる疾病(頸腕症候群・五十肩・腰痛症及び頸椎捻挫後遺症等の慢性的な疼痛を主症とする疾患)に限り支給の対象とする。
  • 神経痛、リウマチ、頸腕症候群、五十肩、腰痛症、頸椎捻挫後遺症について、保険医より同意書の交付を受けてはり、きゅうの施術を受けた場合は、医師による適当な治療手段のないものとし療養費の支給対象として差し支えない。

マッサージ

  • マッサージの施術に係る療養費の支給対象となる適応症は、一律にその診断名によることなく筋麻痺・関節拘縮等であって、医療上マッサージを必要とする症例について支給対象とされる。
  • 脱臼又は骨折に施術するマッサージについては、医師の同意書により取り扱うこと。また、変形徒手矯正術については、医師の同意書により取り扱うこと。

共通

  • 患者が施術者から健康保険事業の健全な運営を損なうおそれのある経済上の利益の提供を受けて、当該施術者を選択し、施術を受けた場合は、療養費の支給の対象外とする。
  • 医師の同意又は再同意は、医師の診察を受けたものでなければならない。

(一定の場合には、同意書に代る診断書でも差し支えないこととなっています)


治療用装具

主な留意事項を整理しておきます(令和5年3月17日保医発0317第1号)

なお、小児弱視等の治療用眼鏡等、四肢のリンパ浮腫治療のための弾性着衣等、輪部支持型角膜形状異常眼用コンタクトレンズ、慢性静脈不全による難治性潰瘍治療のための弾性着衣等については、別途取扱いが通知されています。

  • 患者等が補装具製作事業者等(治療用装具を取り扱った義肢装具士が所属。以下「事業者」という。)から健康保険事業の健全な運営を損なうおそれがある経済上の利益の提供を受けて、当該事業者を選択し、治療用装具の提供を受けた場合は、療養費の支給の対象外とする。
  • 療養費支給の対象となる治療用装具は、患者へ採型・採寸を行い固有の数値を用い製作(又は購入)されたオーダーメイドが基本である。ただし、オーダーメイドと同等の機能を有した既製品装具の場合においても、疾病又は負傷の治療遂行上必要な範囲のものであれば、療養費の支給が可能である。

治療用装具に係る療養費の支給までの流れ

療養費|治療用装具

療養費の支給までの流れを整理しておきます(令和5年3月17日保医発0317第1号、平成30年2月9日保発0209第1号)

  • 保険医が患者を診察し、疾病又は負傷の治療上、治療用装具が必要であると認めます。
  • 保険医の指示(処方)により、治療用装具の製作(又は購入)もしくは修理が行われます。
  • 義肢装具士が患者に治療用装具の採型・採寸及び適合調整を行い、保険医が装着(適合)を確認します。
  • 患者は治療用装具に係る代金を事業者に支払います。
  • 治療用装具購入に要した費用について、①及び③を確認できる証明書、④の領収証を添付して療養費の支給を申請します。
  • 保険者は支給基準又は現に要した費用の限度内で療養費を支給します。

上記①のとおり、療養費の支給対象となる治療用装具は、疾病又は負傷の治療行為のために必要なものに限られています。

そのため、眼鏡(小児弱視等の治療用眼鏡は除く。)や補聴器、人工肛門受便器等の日常生活や職業上の必要性によるもの、美容の目的で使用されるもの、スポーツなどの一時的使用を目的としたものは療養費の支給対象となりません(令和5年3月17日保医発0317第1号)

また、保険医の診察、治療用装具の装着(適合)確認、保険医の義肢装具士への指示を経ずに患者への採型・採寸、装着又は販売等がされた治療用装具(①~③を満たさない治療用装具)については、療養費の支給対象となりません(前掲通達)

なお、②には修理(医師が治療上必要と判断し調整が必要となった場合)も含まれます。

ただし、被保険者が資格取得前に義手義足を装着し、資格取得後において修理を必要とする場合のように、症状固定後に装着した義肢の単なる修理に要する費用は療養費として支給されません(昭和26年5月6日保文発1443号)

繰り返しになりますが、療養費の支給対象となるのは、疾病又は負傷の「治療行為」のために必要な装具の制作、購入、修理に限定されます。


まとめ

解説は以上です。

療養費の仕組み(保険制度)はそこまで複雑ではありません。ただし、具体的な事案が療養費の支給対象となるかの判断は簡単ではありません。

海外療養費、柔道整復、治療用装具については、社労士試験でも通達からの出題がみられます。

療養費の支給対象と「なる」「ならない」の結論だけでは正解を導けない問題もあるため、問題集の解説を丁寧に読みながら勉強してみてください。


(参考資料等)

厚生労働省|厚生労働省法令等データベースサービスより|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kensaku/index.html

  • 健康保険法
  • 平成29年12月22日保保発1222第2号(臓器移植に係る海外療養費の取扱いについて)
  • 平成29年12月22日事務連絡(臓器移植に係る療養費及び移送費の取扱いに係るQ&Aの送付について)
  • 平成6年9月9日保険発119号(健康保険の移送費の支給の取扱いについて)
  • 昭和24年6月6日保文発1017号(療養費の支給条件について)
  • 昭和13年8月20日社庶1629号(療養費ニ関スル件)
  • 昭和56年2月25日保険発10号(健康保険法等の一部を改正する法律等の施行に係る事務取扱いについて)
  • 昭和31年3月13日保文発1903号(療養費の請求権消滅時効の起算日について)
  • 昭和26年5月6日保文発1443号(被保険者資格取得前に装着した義足等の修理に関する保険給付について)

厚生労働省ホームページ|柔道整復師の施術に係る療養費の改定等についてより|
https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/iryouhoken13/01-01.html

  • 柔道整復師の施術に係る療養費の算定基準の実施上の留意事項等について(平成9年4月17日保険発57号)(改正反映版)

厚生労働省ホームページ|はり師、きゅう師及びあん摩・マッサージ・指圧師の施術に係る療養費の改定等についてより|
https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/iryouhoken13/01-02.html

  • はり師、きゅう師及びあん摩・マッサージ・指圧師の施術に係る療養費の支給の留意事項等について(平成16年10月1日保医発1001002号)(改正反映版)

厚生労働省ホームページ|治療用装具に係る療養費についてより|
https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/iryouhoken13/01-03.html

  • (参考/改正反映版)「治療用装具の療養費支給申請に係る手続き等について」(平成30年2月9日 保発0209第1号保険局長通知)
  • 治療用装具に係る療養費の支給の留意事項等について(令和5年3月17日保医発0317第1号保険局医療課長通知)
  • (参考/改正反映版)療養費の支給対象となる既製品の治療用装具について(平成28年9月23日保発0923第3号保険局長通知)