社労士試験の独学|労一|個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律

まえがき

この記事では、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(以下、個別労働紛争解決促進法)を解説しています。

記事中の略語は次の意味で使用しています。

  • 個紛法 ⇒ 個別労働紛争解決促進法
  • 労組法 ⇒ 労働組合法
  • 労調法 ⇒ 労働関係調整法
  • 通達 ⇒ 平成13年9月19日厚生労働省発地129号

社会保険労務士試験の独学、労務管理担当者の勉強などに役立てれば嬉しいです。

当記事は条文等の趣旨に反するような極端な意訳には注意しております。ただし、厳密な表現と異なる部分もございます。

詳しくは免責事項をご確認ください。

個別労働紛争解決促進法の目的等

はじめに、次の事項を解説します。

  • 目的、用語の定義
  • 労働者の募集及び採用に関する事項
  • 適用除外
  • 船員に関する特例

目的、用語の定義

社労士試験の勉強用に条文を載せておきます。

個別労働紛争解決促進法1条(目的)

この法律は、労働条件その他労働関係に関する事項についての個々の労働者と事業主との間の紛争(労働者の募集及び採用に関する事項についての個々の求職者と事業主との間の紛争を含む。以下「個別労働関係紛争」という。)について、あっせんの制度を設けること等により、その実情に即した迅速かつ適正な解決を図ることを目的とする。

(この法律の)「紛争」とは、一方の主張に対し、他方がそれに同意せず、両者の主張が一致していない状態をいいます(通達)

個別労働関係紛争

個別労働関係紛争

目的条文にあるとおり、個別労働関係紛争とは、次の①②をいずれも満たした紛争をいいます。

  • 労働条件その他労働関係に関する事項についての紛争
  • 個々の労働者と事業主との間の紛争

上記①の労働関係とは、「労働契約」又は「事実上の使用従属関係」から生じる労働者と事業主の関係をいいます(通達)

労働関係に関する紛争として代表的なものには、いじめ・嫌がらせなどの職場環境についての紛争があります(後述の「個別労働紛争解決制度の施行状況」を参照)

(同僚、上司、部下からのいじめ・嫌がらせについても、個々の労働者と事業主が紛争の当事者となります)

なお、上記②の要件により、労働組合と事業主との紛争(いわゆる集団的労使紛争)については、①を理由としたものでも個別労働関係紛争に含まれません。

事業主、労働者

事業主とは、事業の経営の主体をいい、個人企業にあってはその企業主が、会社その他の法人組織の場合にはその法人をいいます(通達)

なお、紛争当事者である事業主が倒産等により消滅し(合併による消滅を除く)、又は個人事業主が死亡した場合(相続人が事業を相続した場合を除く)は、紛争の一方の当事者が存在しないため、この法律の対象となりません(通達)

労働者であるか否かは、契約内容のみで外形的に判断せず、実態を踏まえて判断します。また、解雇された者については、解雇の時点で「労働者」の要件を満たしていれば、この法律の「労働者」に該当します(通達)

個別、集団

個別的労使紛争、集団的労使紛争

下表は、行政による制度を個別労働関係紛争(個別的労使紛争)と集団的労使紛争とで区別したものです。

紛争個別集団
法律個紛法労組法
労調法
制度労働相談
助言・指導
あっせん
不当労働行為の救済申立て制度
労働争議の調整(あっせん、調停、仲裁)
機関都道府県労働局(長)
紛争調整委員会
都道府県労働委員会
中央労働委員会
都道府県労働委員会
労使紛争の区別

以降は「個別労働関係紛争」についての解説です。


労働者の募集及び採用に関する事項

個別労働関係紛争には、「労働者の募集及び採用に関する事項」についての「個々の求職者と事業主」との間の紛争(以下、募集及び採用に関する紛争)を含みます。

ただし、募集及び採用に関する紛争は、労働相談、助言・指導の対象になりますが、あっせんの対象にはなりません(個紛法5条1項)

募集及び採用に関する紛争含む〇 除く✕
法律の目的
労働相談
助言・指導
あっせん
募集及び採用に関する紛争の対象

「労働相談」「助言・指導」「あっせん」については、それぞれ後述します。

募集

「募集」とは、労働者を雇用しようとする者が、自ら又は他人に委託して、労働者となろうとする者に対し、その被用者となることを勧誘することをいいます(職業安定法4条5項、通達)

ただし、個紛法1条の「募集」には、上記に加えて、公共職業安定所その他の職業紹介機関を介して行うものも含まれます(通達)

また、労働者派遣事業を行う事業主の次の行為も、個紛法1条の「募集」に含まれます(通達)

  • 派遣労働者になろうとする者に対し、いわゆる登録を呼びかける行為
  • 呼びかけに応じた者を労働契約の締結に至るまでの過程で登録させる行為

個紛法1条の「募集」の意味は、職業安定法で定める「労働者の募集」よりも、日常的に使われる「労働者の募集」に近いイメージです。

採用

「採用」とは、一般的には労働契約の締結をいいます。

ただし、個紛法1条の「採用」には、「募集」を除く労働契約の締結に至る一連の手続き(応募の受付、採用のための選考など)も含まれます(通達)


適用除外

国家公務員及び地方公務員については、原則として、個別労働紛争解決促進法は適用されません(個紛法22条本文)

例外については下のタブに格納しておきます。

次のいずれかの者の勤務条件に関する事項についての紛争は、個別労働紛争解決促進法が適用されます(個紛法22条ただし書き)

  • 行政執行法人の労働関係に関する法律2条2号の職員
  • 地方公営企業法15条1項の企業職員
  • 地方独立行政法人法47条の職員
  • 地方公務員法57条に規定する単純な労務に雇用される一般職に属する地方公務員であって、かつ、地方公営企業等の労働関係に関する法律3条4号の職員に該当しない者

次のような解釈が示されています(通達)

  • 「勤務条件」とは、国家公務員法及び地方公務員法に定める「勤務条件」と同義で、職員が勤務を提供することについて存する諸条件をいい、具体的には、給与、勤務時間、休暇、勤務環境等が含まれる。
  • 職場のいじめ、セクシュアルハラスメント等に関することは「勤務条件」に含まれる。
  • 任用、分限、懲戒、服務(守秘義務等)等に関することについては「勤務条件」に含まれない。

船員に関する特例

船員(船員職業安定法6条1項)および船員になろうとする者(同項)に関しては、次の制度は国土交通省の管轄となります(個紛法21条)

  • 労働者、事業主等に対する情報提供等(個紛法3条関係)
  • 当事者に対する助言及び指導(個紛法4条1項、2項関係)
  • あっせん(個紛法5条1項関係)

労働相談、助言・指導、あっせん

個別労働関係紛争の解決手段(行政)

簡単にいうと、裁判とは別の解決手段です。

個別労働紛争解決促進法では、個々の労働者(又は求職者)と事業主との間の紛争について、次の三つの制度を定めています。

  • 労働相談(いわゆる総合労働相談です)
  • 助言・指導
  • あっせん

①②③いずれも、労働者(又は求職者)のみならず事業主も利用できる制度です。

①②については、都道府県労働局長が行います。

③については、都道府県労働局長の委任を受けて、紛争調整委員会が行います。

ちなみに、「紛争調整委員会」と「労働委員会」は異なる機関です。

(いずれの機関も労使紛争に対して「あっせん」を行います。明確に区別するとしたら、紛争調整委員会は集団的労使紛争を扱いません)

労働委員会については、こちらの記事で解説しています。


労働相談

個別労働関係紛争について、その発生の予防と、発生した紛争への自主的な解決を促進するための制度です。

都道府県労働局長は、労働者、求職者又は事業主に対し、次の事項についての情報の提供、相談その他の援助を行います(個紛法3条)

  • 労働関係に関する事項
  • 労働者の募集及び採用に関する事項

実際には、都道府県労働局などに設置されている「総合労働相談コーナー」にて、情報提供や制度の説明、他の機関との連携が行われています。


助言・指導

都道府県労働局長は、個別労働関係紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該紛争の当事者に対し、必要な助言又は指導を行えます(個紛法4条1項)

ただし、次の紛争については、都道府県労働局長の助言・指導は行われません(個紛法4条1項)

  • 労働争議に当たる紛争
  • 行政執行法人とその職員との間に発生した紛争

(労働者の募集及び採用に関する事項は、助言及び指導の対象です)

なお、助言・指導は、紛争当事者に一定の措置の実施を強制するものではありません(通達)


あっせん

あっせんの概念図

あっせんは、紛争当事者の間に第三者が入り、双方の意見を調整し、紛争の自主的な解決を促進する制度です。

都道府県労働局長は、個別労働関係紛争について、紛争当事者の双方又は一方からあっせんの申請があった場合において当該紛争の解決のために必要があると認めるときは、紛争調整委員会にあっせんを行わせる(委任する)ことになっています(個紛法5条1項)

ただし、次の紛争については、あっせんは行われません(個紛法5条1項)

  • 労働争議に当たる紛争
  • 行政執行法人とその職員との間に発生した紛争
  • 労働者の募集及び採用に関する事項についての紛争

また、事件の性質上あっせんが適当でないとき(裁判で係争中、確定判決が出された、労働委員会等の他の機関のあっせんが進行中など)、又は不当な目的でみだりにあっせんの申請をしたとき(相手の社会的信用の低下が目的、和解契約の履行を不当に免れることが目的など)についても、あっせんは行われません(個紛法施行規則5条2項、通達)

紛争調整委員会について、簡単に整理しておきます。

  • 紛争調整委員会は、都道府県労働局に設置されます(個紛法6条)
  • 紛争調整委員会の委員は、学識経験を有する者のうちから、厚生労働大臣が任命します(個紛法7条2項)
  • 紛争調整委員会による「あっせん」は、委員のうちから会長が事件ごとに指名する3人のあっせん委員によって行われます(個紛法12条1項)
  • あっせん委員は、あっせんの手続きの一部を特定のあっせん委員に行わせる(委任する)ことができます(個紛法施行規則7条)

あっせん委員は、紛争当事者双方の主張を確かめ、事件の解決に必要なあっせん案を提示することができます(個紛法12条2項、13条1項)

あっせん案は、あくまで話合いの方向性を示すものですので、話合いの促進のために提示することはあっても、受諾を強制するものではありません(通達)

(紛争当事者が合意した場合は、民法上の和解となります)

ちなみに、あっせん委員が行う「あっせん」は非公開です(個紛法施行規則14条)

時効の完成猶予

あっせん委員は、あっせんによっては紛争の解決の見込みがないと認めるときは、あっせんを打ち切ることができます(個紛法15条)

個紛法15条の規定によりあっせんが打ち切られた場合において、当該あっせんの申請をした者がその旨の通知を受けた日から30日以内にあっせんの目的となった請求について訴えを提起したときは、時効の完成猶予に関しては「あっせんの申請の時に、訴えの提起があったもの」とみなします(個紛法16条)


不利益取扱いの禁止

労働者による次の行為を理由として、事業主が当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをすることは禁止されています(個紛法4条3項、5条2項)

  • 労働者が都道府県労働局長の援助(個紛法4条1項)を求めたこと
  • 労働者があっせん(個紛法5条1項)の申請をしたこと

個紛法4条3項の「不利益な取扱い」とは、解雇をはじめとして、配置転換、降格、減給、昇給停止、出勤停止、雇用契約の更新拒否等がこれに当たると示されています(通達)


紛争の解決の促進に関する特例

個別労働関係紛争|特例

次の①~⑥の紛争については、個別労働紛争解決促進法による「助言・指導」「あっせん」は行われません。

(具体的には上記リンクの各記事で解説しています。なお、細かい相違はあるものの、男女雇用機会均等法が基準となっています)

上記の紛争については、それぞれの法律で「助言、指導又は勧告」「調停」の制度が規定されているため、個別労働紛争解決促進法の対象から除かれます。

(セクハラ・マタハラについては①、育児・介護ハラスメントについては②、パワハラについては③により、紛争の解決が図られます)

ちなみに、「調停」は合意を促すために調停案の受諾を勧告することができるため、「あっせん」より解決に踏み込んだ制度といえます。

調停についても、都道府県労働局長の委任を受けて、紛争調整委員会(調停委員)が行います。


地方公共団体の施策

地方公共団体は、当該地域の実情に応じて、個別労働関係紛争について労働者、求職者又は事業主に対する情報の提供、相談、あっせんその他の必要な施策を推進するように努めることになっています(個紛法20条1項)

実際には、44の都道府県労働委員会(都道府県知事の所轄です)で、個別労働関係紛争についての「あっせん」の取扱いがあります。

(中央労働委員会については、個別労働関係紛争の取扱いはありません)

個別労働紛争解決促進法の解説は以上です。


参考|個別労働紛争解決制度の施行状況

最後に、ここまで解説してきた制度の施行状況を紹介します。

令和5年度個別労働紛争解決制度の施行状況(令和6年7月12日公表)によると、次の内容が公表されています(報道資料より一部を抜粋)

各制度の件数

  • 総合労働相談の件数 121万412件(4年連続で120万件越え、高止まり)
  • 助言・指導の申出件数 8,372件
  • 紛争調整委員会による「あっせん」の申請件数 3,687件

総合労働相談」の相談内容

総合労働相談の相談内容の内訳は次のとおりです。

(1回で複数の内容にまたがる相談、申出、申請が行われた場合には、複数の内容を件数に計上しています)

  • 法制度の問い合わせ 83万4,829件
  • 労働基準法等の違反の疑いがあるもの 19万2,961件
  • 民事上の個別労働関係紛争相談 26万6,162件

「あっせん」の処理件数の内訳

紛争調整委員会による「あっせん」の処理件数の内訳は次のとおりです。

(それぞれの処理件数は、年度内に処理が完了した件数で、当該年度以前に申出又は申請があったものを含みます)

  • 合意の成立 1,210件
  • 取り下げ 152件
  • 打ち切り 2,303件
  • その他 16件

紛争の理由

民事上の個別労働関係紛争における相談、あっせんの申請の理由については、「いじめ・嫌がらせ」の件数が引き続き最多となっています。

  • 「いじめ・嫌がらせ」の相談件数 60,125件(12年連続で最多)
  • 「いじめ・嫌がらせ」のあっせんの申請 800件(10年連続で最多)

また、民事上の個別労働関係紛争における相談、助言・指導の申出、あっせんの申請の全項目で、「労働条件の引下げ」の件数が前年度から増加しています。

参考|厚生労働省(外部サイトへのリンク)|令和5年度個別労働紛争解決制度の施行状況


まとめ

解説は以上です。

労使間の紛争は、個別的労使紛争と集団的労使紛争に大別できます。

個別労働紛争解決促進法は、個別的労使紛争(個別労働関係紛争)のみを扱う法律です。

集団的労使紛争は「労働委員会」が扱いますので、労働組合法と比較しながら勉強してみてください。


(参考資料等)

厚生労働省|厚生労働省法令等データベースサービスより|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kensaku/index.html

  • 個別労働紛争解決促進法
  • 平成13年9月19日厚生労働省発地129号(個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律の施行について)

厚生労働省ホームページ|個別労働紛争解決制度(労働相談、助言・指導、あっせん)
https://www.mhlw.go.jp/general/seido/chihou/kaiketu/index.html

厚生労働省ホームページ|職場でのトラブル解決の援助を求める方へ
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/woman/index.html