この記事では、健康保険法における不服申立てを解説しています。
記事中の略語は、それぞれ次の意味で使用しています。
- 法、この法律 ⇒ 健康保険法
- 社審法 ⇒ 社会保険審査官及び社会保険審査会法
- 保険者 ⇒ 全国健康保険協会、各健康保険組合
当記事は、条文等の趣旨に反するような極端な意訳には注意しておりますが、厳密な表現と異なる部分もございます。
詳しくは免責事項をご確認ください。
目次 非表示
審査請求、再審査請求
厚生労働大臣がした処分だけでなく、日本年金機構(以下、機構)、全国健康保険協会、各健康保険組合がした処分に不服がある場合は、審査請求および再審査請求の対象です(社審法3条ほか)
不服申立ての手段には「審査請求」と「再審査請求」があります。
- 審査請求とは、上記の保険者等が行った処分(決定)について、事実関係や法律関係を審査するよう請求することをいいます。
- 再審査請求とは、審査請求をした後に、再び審査を請求することをいいます。
(厳密には、法律に「できる旨の規定」があれば、再調査の請求という不服申立ての手段もあります)
いずれも裁判とは異なる制度です。

- 被保険者の資格、標準報酬又は保険給付に関する処分に不服がある者は、社会保険審査官に対して審査請求ができる(法189条1項)
- 社会保険審査官による決定に不服がある者は、社会保険審査会に対して再審査請求ができる(法189条1項)
- ①に規定する処分の取消しの訴えは、当該処分についての審査請求に対する社会保険審査官の決定を経た後でなければ、提起できない(法192条)
- ①の審査請求及び②の再審査請求は、時効の完成猶予及び更新に関しては、裁判上の請求とみなす(法189条3項)
- 被保険者の資格又は標準報酬に関する処分が確定したときは、その処分への不服を当該処分に基づく保険給付に関する処分についての不服の理由にはできない(法189条4項)
①社会保険審査官は、厚生労働省の職員です。
②社会保険審査会は、厚生労働大臣が任命する学識経験者で構成されます。
被保険者の資格、標準報酬又は保険給付への不服申立てには、①社会保険審査官への審査請求を経て、②社会保険審査会への再審査請求という二審制が採用されています。
③ 審査請求前置主義

③は、裁判所に処分の取消しの訴え(以下、取消訴訟)を提起する前に、社会保険審査官に審査請求をして、当該請求に対する決定を経てください という趣旨です。
- 原則としては、審査請求をしなくとも取消訴訟を提起できます(行政事件訴訟法8条1項)。これを自由選択主義といいます。
- ただし、③のように、法律に「審査請求を経なければ訴えを提起できない」旨の定めがある場合は、その定めが適用されます(同項ただし書)。これを審査請求前置主義といいます。
(厳密には、各法律により審査請求前置主義が適用される場合でも、著しい損害を避けるため緊急を要すなど同条2項に該当するときは取消訴訟を直ちに提起できます)
ちなみに、審査請求前置主義が適用されても、②再審査請求は義務ではありません(しても構いません)
なお、①審査請求をした日から2か月以内に決定がないときは、審査請求人は、社会保険審査官が審査請求を棄却したとみなせます(法189条2項)
(棄却も決定に含まれるため、取消訴訟を提起したり、再審査請求に進めます)
④ 完成猶予、更新(裁判上の請求とみなす)
④としては、民法147条により、裁判上の請求の事由(手続)が終了する(権利が確定せずにその事由が終了した場合は、その終了の時から6か月を経過する)までの間は、時効の完成が猶予されます(期間の進行がストップします)
また、権利が確定したときは、裁判上の請求の事由が終了した時から、時効は新たに進行します(リセットして、再スタートする意味で更新します)
⑤ 不服の理由
⑤としては、例えば、傷病手当金が支給されたものの、「標準報酬月額の決定方法が間違っているから、傷病手当金の額も間違っている」といった不服があるとしましょう。
上記の例において、標準報酬月額(定時決定などの処分)が確定したとき(例えば、取消訴訟を提起できる期間を過ぎたなど)は、傷病手当金の支給に係る審査請求の理由に「標準報酬月額が間違っているから」は採用できません。
(被保険者の資格又は報酬月額が確定していない場合は、⑤の制限はかかりません)
なお、事務処理上のミス(例えば、保険者等の側の入力誤り)については、単にその事実を指摘すれば、訂正されるでしょう。
不服申立ての「不服」とは、「処分は妥当だというけれど、〇〇に照らすとその処分は適当でない。したがって、△△すべきだ」のような不服を意味します。

つづいて、保険料等に係る不服申立てです。
次の①又は②に不服がある者は、社会保険審査会に対して審査請求ができます(法190条)
- 保険料等の賦課又は徴収についての処分
- 滞納処分
保険料等とは、保険料その他この法律の規定による徴収金をいいます(法180条1項)
保険料等の賦課とは、保険料等を徴収する側で、徴収する額(納付額)を納付義務者に割り当てることを意味します。
(直感的にいうと、健保・厚年における納入の告知です)
上記①又は②の処分に不服がある場合は、社会保険審査会(社会保険審査官ではない)への審査請求という一審制が採用されています。
なお、法190条の審査請求には、「審査請求を経なければ訴えを提起できない」旨の定めがないため、審査請求前置主義の適用はありません。
(健保、厚年、船保の保険料等の審査請求については、直前の④のようにみなす規定もありません)
社審法
審査請求及び再審査請求の手続(審査の手順や、請求が可能な期間など)は、社会保険審査官及び社会保険審査会法で定められています。

- 「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に関する不服申立ては、他の法律に特別の定めがある場合を除き、行政不服審査法(以下、行審法)の定めによります(行審法1条)。なお、行審法においても、再審査請求を行うためには、他の法律に「再審査請求をすることができる」旨の規定が必要です(同法6条1項)
- 健康保険法には特別の定めがあるため、健康保険法191条に規定する審査請求及び再審査請求には、行審法の第二章(*1)及び第四章(*2)は適用されません。
(*1)行審法による審査請求の手続等を定めた章です。ただし、この章のうち、誤った教示をした場合の救済規定(行審法22条)は、健康保険法にも適用されます。
(*2)行審法による再審請求の手続等を定めた章です。
健康保険法191条に規定されているのは、資格、標準報酬、保険給付、保険料その他徴収金についての審査請求又は再審査請求です(ここまで解説した審査請求と再審査請求です)。これらの審査請求又は再審査請求には、社審法が適用されます。
(船保、厚年、国年の不服申立ては、この記事の最後に整理しておきます)
なお、労災保険(保険給付に関する決定)と雇用保険(資格の確認、失業等給付等、不正受給に係る返還・納付)の不服申立てには、労働保険審査官及び労働保険審査会法(労審法)が定められています。
一方、労働保険徴収法には、特別の定めがないため、行審法によります。ちなみに、労働保険徴収法には再審査請求ができる旨の規定はありません(厚生労働大臣への審査請求となります)
社労士試験(社一)でも出題されているため、以降、社審法を解説します。
社会保険審査官

前述のとおり、下記に関する処分への審査請求は、社会保険審査官に対して行います(法189条)
- 被保険者の資格
- 標準報酬
- 保険給付
以降、上記を総称して「被保険者の資格等」と表記します。

- 被保険者の資格等に関する処分への審査請求の事件を取り扱うため、各地方厚生局に社会保険審査官(以下、審査官)が置かれています(社審法1条1項)
- 審査官の定数は103人です(社審法1条2項、同法施行令1条)
- 審査官は、厚生労働省の職員のうちから、厚生労働大臣が命じます(社審法2条)
(地方厚生局には、地方厚生支局を含みます。以下同じ)
審査官は、厚生労働省の職員ですが、審査請求に係る処分(不作為を含む)に関与した者(関与することになる者を含む)は、なれません(社審法3条2項)

被保険者の資格等に関する処分への審査請求(以下、単に「審査請求」と表記します)には、①及び②の請求期間が設けられています。
- 被保険者の資格等に関する処分があったことを知った日の翌日から起算して3か月を経過したときは、できない(社審法4条1項)
- ただし、「正当な事由により①の期間内に審査請求ができなかった」ことを疎明したときは、①の限りでない(同項ただし書)
- 被保険者の資格又は標準報酬に関する処分については、原処分があった日の翌日から起算して2年を経過したときは、できない(同条2項)
(知った日とは、原則として、処分についての決定通知が送達された日を意味します。以下同じ)
①としては、例えば、令和8年5月10日に処分を知った場合は、同年5月11日から起算するため同年8月10日までに審査請求をする必要があります。
③については、実際問題としては健康保険法49条(資格の得喪の確認又は標準報酬の決定若しくは改定を行ったときは、その旨を通知又は公告しなければならない)により決定通知書は送達されていると推察しますが、処分を知ったか否かは関係ありません(知っていたら①が適用されます)。また、②のような正当な事由の取扱い(審査請求人の視点)はありません。
なお、審査請求書を郵便で提出した場合の「郵送に要した日数」は、請求期間の計算(①の3か月、③の2年)に算入しません(同条3項)
請求
- 審査請求は、管轄の地方厚生局に置かれた審査官に対して行います(社審法3条)
- 審査請求の方法は、文書だけでなく、口頭も認められています(社審法5条1項)
(口頭で請求する場合でも、請求書に記載すべき事項を述べる必要があります)
管轄そのものは、処分をした保険者等の事務所を基準に設けられています。ただし、実際の請求は、審査請求人の居住地を管轄する地方厚生局や年金事務所を経由できます。(社審法3条1項、5条2項)
なお、審査請求が不適法で補正できないとき(そもそも直前の①又は③の期間を過ぎているなど)は、審査官は「却下」の決定をします(社審法6条)
取下げ
- 審査請求人は、決定があるまでは、いつでも審査請求の取下げができます(社審法12条の2第1項)
- 審査請求の取下げの方法は、文書に限ります(同条2項)
なお、審査請求人が審査請求の決定前に死亡したときは、承継人が審査請求の手続を受け継ぎます(社審法12条)
代理人
- 代理人による審査請求も可能です(社審法5条の2第1項)
- 代理人は、各自、審査請求人のために、当該審査請求に関する一切の行為ができます(同条2項)
- ただし、審査請求の取下げは、特別の委任を受けた場合に限り行えます(同項ただし書)

- 審査官は、審査請求がされたとき(却下する場合を除く)は、原処分をした保険者(厚生労働大臣、機構を含む。以下同じ)及びその他の利害関係人に通知します(社審法9条1項)
- 上記の通知を受けた者は、審査官に対し、事件について意見を述べることができます(同条2項)
審査官に対する審査請求は、基本的には、提出された文書その他の物件(証拠となるべき文書、原処分の理由となる事実を証する文書など)に基づいて審理が行われます。
ただし、下記の口頭意見陳述が行われるケースもあります。
- 「審査請求人」又は「保険者以外の利害関係人」の申立てがあったときは、審査官は、当該申立人に口頭で意見を述べる機会を与える必要があります。ただし、困難な場合を除きます(社審法9条の3)
- 口頭意見陳述に際し、申立人は、審査官の許可を得て、審査請求に係る事件に関し、原処分をした保険者に対して、質問ができます(同条4項)
(社審法施行規則3条により、オンライン形式で口頭意見陳述の審理を行うことも可能です)
また、審査官は、審理を行うため必要があるときは、審査請求人又は参考人の出頭を求めて審問したり、事業所などに立ち入って質問検査等を行うこと(審理のための処分)ができます(社審法11条)
審査請求人又は保険者その他の利害関係人は、決定があるまでの間、審査官に対し、提出された文書その他の物件の閲覧又は当該文書の写しの交付を求めることができます(社審法11条の3)
(交付については、一定の場合を除き、実費に相当する手数料が発生します)
原処分の執行の停止

- 審査請求は、原処分の執行(被保険者の資格の有無、標準報酬月額などの効力)を停止しません(社審法10条1項)
- ただし、審査官は、原処分の執行により生ずることのある償うことの困難な損害を避けるため緊急の必要があると認めるときは、職権で原処分の「執行の停止」ができます(同項ただし書)
- 審査官は、いつでも②の「執行の停止」を取り消せます(同条2項)
- 「執行の停止」及び「執行の停止の取消」は、文書により、かつ、理由を附し、原処分をした保険者に通知します(同条4項)
- 審査官は、「執行の停止」又は「執行の停止の取消」をしたときは、審査請求人及び保険者以外の利害関係人にも通知します(同条5項)
なお、②の「執行の停止」は、2か月以内に審査官の決定がないため、審査請求を棄却したとみなして再審査請求をしたときは、効力を失います(同条3項)

審査官が行う審理は、非公開です(口頭意見陳述が行われる場合でも、一般には公開されません)
- 審査官は、審理を終えたときは、遅滞なく、審査請求の全部又は一部を容認し、又は棄却する決定をします(社審法13条)
- 決定は、決定書の謄本が審査請求人に送達された時に、その効力を生じます(社審法15条1項)
- 送達を受けるべき者の所在が知れないとき、その他決定書の謄本を送付できないときは、公示送達(*3)が認められています(同条2項)
(*3)令和8年5月21日からは、官報への掲載が廃止され、インターネット上で閲覧できる取扱いが開始されます。また、(インターネット上で閲覧できる状態に置くとともに、)現行の掲示場への掲示に加え、当該場所に設置したパソコンの画面に表示する方法も可能になります(令和8年4月28日厚生労働省令88号)
前述の「却下」は、審査請求そのものが不適法のため、審理せずに退ける決定です。
一方、①の「棄却」は、審理を経て、審査請求人の主張を退ける決定です。
ちなみに、③については、公示送達を開始した日の翌日から起算して2週間を経過した時に決定書の謄本の送付があったみなされます(社審法15条3項)
(公示送達の取扱いは、令和8年5月21日からの取扱いを含め、後述の裁決において同じです)
審査官は、決定をしたときは、すみやかに、事件につき提出された文書その他の物件をその提出人に返還する必要があります(社審法16条の2)
決定の拘束力
審査官の決定は、保険者その他の利害関係人を拘束します(社審法16条)
(上記の利害関係人は、審査請求がされたときに審査官からその旨の通知を受けた、原処分をした保険者その他の利害関係人です。つまり、審査請求人は含まれません)
例えば、「保険給付の不支給」を不服として審査請求をした場合に、審査官が当該請求(不服)を容認する決定(不支給を取り消す趣旨の決定)をしたときは、各保険者は「決定」の趣旨にしたがって、保険給付の支給の手続をやり直します。
(再審査請求ができるから、審査官の決定を保留しておこうのような取扱いは明示的に制限されています)
審査請求の制限
審査官による審査請求の手続に基づく処分又はその不作為については、審査請求ができません(社審法17条の2)
一方、審査官による当該請求を棄却(又は一部のみ容認、却下)する決定を受け、保険者が行った「被保険者の資格等に関する処分」を理由として、社会保険審査会に再審査請求をすることは可能です。
(再審査請求をせずに、取消訴訟を提起しても構いません)
社会保険審査会

前述のとおり、被保険者の資格等に関する処分への再審査請求は、社会保険審査会に対して行います(法189条)
また、下記に係る審査請求は、社会保険審査会に対して行います(法190条)
- 保険料等の賦課
- 保険料等の徴収
- 滞納処分
以降、次の表記で解説します。
- 被保険者の資格等に関する処分への再審査請求を「再審査請求」
- 保険料等の賦課若しくは徴収の処分又は滞納処分への審査請求を「保険料等に係る審査請求」

- 「再審査請求」及び「保険料等に係る審査請求」の事件を取り扱わせるため、厚生労働大臣の所轄の下に、社会保険審査会(以下、審査会)が置かれています(社審法19条)
- 審査会は、委員長及び委員5人で組織されます(社審法21条)
- 委員長及び委員は、人格が高潔であって、社会保障に関する識見を有し、かつ、法律又は社会保険に関する学識経験を有する者のうちから、両議院の同意を得て、厚生労働大臣が任命します(社審法22条1項)
審査会の委員長及び委員は、独立してその職権を行います(社審法20条)
ちなみに、委員長及び委員の任期は3年(補欠の場合は前任者の残任期間)です(社審法23条)
合議体

(実際には、委員長及び各委員が複数の合議体に参加することにより、第1~第4の部会が設けられています)
- 審査会は、委員長及び委員のうちから、審査会が指名する者3人で構成する合議体で、再審査請求又は保険料等に係る審査請求の事件を取り扱う(社審法27条1項)
- ①にかかわらず、審査会が定める場合には、委員長及び委員の全員で構成する合議体で、再審査請求又は保険料等に係る審査請求の事件を取り扱う(社審法27条2項)
審査官は1人で「審査請求」に対する意思決定を行います。
一方、審査会は3人(②の場合は全員)で「再審査請求」又は「保険料等に係る審査請求」に対する意思決定を行います。
合議体の議事は、その合議体を構成する審査員の過半数で決します。ただし、上記②の場合は出席した審査員の3人以上の賛成で(賛否それぞれ3人の場合は審査長が)決します(社審法27条の3第2項、3項)
委員会議
審査会の会務の処理(再審査請求又は保険料等に係る審査請求の事件の取扱いを除く)は、「委員長」及び「委員の全員」の会議(これを委員会議といいます)の議決によります(社審法27条の4)
事件の審理及び裁決以外の会務、例えば、合議体を構成する審査員の指名などは、委員会議の議決によります(昭和35年11月7日保発69号)
委員会議の議事は、出席した委員長及び委員の過半数で(可否同数の場合は委員長が)決します(社審法27条の4第3項)
ただし、次の①又は②の認定については、出席した委員長及び委員のうちの本人を除く全員の一致が必要です(社審法27条の4第4項)
- 心身の故障のため、職務の執行ができない
- 職務上の義務違反その他委員長又は委員たるに適しない非行がある
審査会により、上記①又は②に該当すると認められたときは、厚生労働大臣は、その委員長又は委員を罷免する必要があります(社審法24条3号、25条)

「再審査請求」又は「保険料等に係る審査請求」には、①又は②の請求期間が設けられています。
- 再審査請求は、審査官の決定書の謄本が送付された日の翌日から起算して2か月を経過したときは、できない(社審法32条1項)
- 保険料等に係る審査請求は、当該処分があったことを知った日の翌日から起算して3か月を経過したときは、できない(同条2項)
なお、「正当な事由により①又は②の期間内にそれらの請求ができなかった」ことを疎明したときは、①又は②の限りではありません(同条3項)
また、①の再審査請求書又は②の審査請求書を郵便で提出した場合も、「郵送に要した日数」は、請求期間の計算に算入しません(同条3項)
請求
- 再審査請求及び保険料等に係る審査請求は、社会保険審査会に対して行います。
- 再審査請求及び保険料等に係る審査請求の方法も、文書だけでなく、口頭も認められています(社審法32条4項、同法施行令3条)
(口頭で請求する場合でも、請求書に記載すべき事項を述べる必要があります)
以降、「再審査請求」と「保険料等に係る審査請求」を総称して「再審査請求等」と表記します。
なお、再審査請求等が不適法で補正できないときは、審査会は却下の裁決をします(社審法44条)
取下げ
- 審査請求人(再審査請求人を含む。以下同じ)は、裁決があるまでは、いつでも再審査請求等の取下げができます(社審法44条)
- 再審査請求等についても、取下げの方法は、文書に限ります(同条)
なお、審査請求人が再審査請求等の裁決前に死亡したときは、承継人が再審査請求等の手続を受け継ぎます(同条)
代理人
- 代理人による再審査請求等も可能です(同条)
- 代理人は、各自、審査請求人のために、当該再審査請求等に関する一切の行為ができます(同条)
- ただし、再審査請求等の取下げは、特別の委任を受けた場合に限られます(同条)

- 厚生労働大臣は、被保険者の利益を代表する者及び事業主の利益を代表する者(以下、利益を代表する者)各2名を、関係団体の推薦により指名します(社審法30条)
- 審査会は、再審査請求等がされたとき(却下する場合を除く)は、原処分をした保険者及び利益を代表する者に通知します(社審法33条)
利益を代表する者の名称は、厳密には「社会保険審査会参与」といいます(同法施行規則8条)
(参与は、健保、船保び厚年ごとに各2名指名され、国年については被保険者及び受給権者の利益を代表する者4名が指名されます)
また、審査会は、必要があると認めるときは、申立てにより又は職権で、利害関係のある第三者を当事者として再審査請求等の手続に参加させること(代理人による参加も可能です)ができます(社審法34条)
なお、次の取扱いは、審査会による再審査請求等に適用されます(社審法40条、44条)
- 当事者又は利益を代表する者による、文書その他の物件の提出(証拠となるべき文書、原処分の理由となる事実を証する文書などを提出すること)
- 審査会による審理のための処分(当事者の出頭を求めて審問したり、事業所などに立ち入って質問検査等を行うこと)
- 当事者又は利益を代表する者による、文書その他の物件の閲覧又は文書の写しの交付を求めること
原処分の執行の停止

- 再審査請求等は、原処分の執行を停止しません(社審法35条1項)
- ただし、審査会は、原処分の執行により生ずることのある償うことの困難な損害を避けるため緊急の必要があると認めるときは、職権で原処分の「執行の停止」ができます(同条ただし書)
- 審査会は、いつでも②の「執行の停止」を取り消せます(同条2項)
- 「執行の停止」及び「執行の停止の取消」は、文書により、かつ、理由を附し、原処分をした保険者に通知します(同条3項)
- 審査会は、「執行の停止」又は「執行の停止の取消」をしたときは、原処分をした保険者以外の当事者にも通知します(同条4項)
審査会の審理は、公開です。ただし、当事者の申立があったときは、非公開にできます(社審法37条)
- 当事者及びその代理人は、審理期日に出頭し、意見を述べることができます(社審法39条1項)
- 利益を代表する者は、各当事者の利益のため、それぞれ審理期日に出頭して意見を述べ、又は意見書を提出することができます(同条2項)
- 意見陳述に際し、当事者(原処分をした保険者を除く)及びその代理人は、審査長の許可を得て、請求に係る事件に関し、原処分をした保険者に対して、質問ができます(同条6項)
- 審査会は、審理の期日における経過について、調書を作成します。当事者及び利益を代表する者は、調書を閲覧できます(社審法41条)
(公開審理は、審査請求人、原処分をした保険者、利益を代表する者、審査会という4つのグループで構成されます)
なお、審査会の合議(原則3人で構成される合議体における意思決定の過程)は、非公開です(社審法42条)

- 審査会は、審理を終えたときは、遅滞なく、再審査請求等の全部又は一部を容認し、又は棄却する裁決をします(社審法44条)
- 裁決は、裁決書の謄本が審査請求人に送達された時に、その効力を生じます(同条)
- 送達を受けるべき者の所在が知れないとき、その他裁決書の謄本を送付できないときは、公示送達が認められています(同条)
審査会は、裁決をしたときは、すみやかに、事件につき提出された文書その他の物件をその提出人に返還する必要があります(同条)
審査請求の制限
審査会がした再審査請求等の手続に基づく処分又はその不作為については、審査請求ができません(社審法44条)
第三審(及び保険料等の処分に係る第二審)はないため、審査会が容認の裁決をした場合は、保険者は「裁決」の趣旨にしたがって処分をやり直すことになります。
一方、棄却(又は一部のみ容認、却下)の裁決がされ、審査請求人が納得できない場合は、以降は裁判で解決を図ることになります。
なお、取消訴訟を提起できる期間にも制限(原則として処分、決定、又は裁決があったことを知った日から6か月以内)が設けられています(行政事件訴訟法14条)

健康保険の不服申立ての解説は以上です。
最後に、次の二つのグループに分けて、不服申立ての取扱い(社会保険科目)を整理しておきます。
- 船員保険法、厚生年金保険法、国民年金法
- 国民健康保険法、高齢者医療確保法、介護保険法
必要に応じて下記のタブを開閉してください。
船保、厚年(共済を除く)、国年(共済が行った障害の程度の診査を除く)についても、資格、標準報酬、保険給付(国年は給付)、保険料その他徴収金への不服申立てには、社審法が適用されます(船保法140条、厚年法91条の2、国年法101条5項、社審法1条、同法19条)
健保との比較を整理しておきます。
- 国年の保険料その他徴収金は、二審制です。ただし、審査請求前置主義は適用されません(国年法101条、101条の2)
- 厚年・国年の脱退一時金は、社会保険審会への一審制です。処分を知った日の翌日から起算して3か月以内(正当な理由ありと疎明したときを除く)に、審査請求(文書又は口頭)ができます。なお、審査請求前置主義は適用されます(厚年法附則29条、国年法附則9条の3の2、社審法附則14項、同法施行令2条、3条)
| 前置 | 健保・船保 | 厚年 | 国年 | |
| 資格 | あり | 2審制 | 2審制 | 2審制 |
| 標準報酬 | あり | 2審制 | 2審制 | - |
| (保険)給付 | あり | 2審制 | 2審制 | 2審制 |
| 保険料その他徴収 | なし | 1審制 | 1審制 | 2審制 |
| 脱退一時金 | あり | - | 1審制 | 1審制 |
参考|記録の訂正請求
厚年・国年における「記録の訂正請求」については、厚年・国年の審査請求の対象から除かれている(厚年法90条1項、国年法101条1項)ため、原則どおり、行審法の定めによります(審査請求前置主義もありません)
具体的には、処分を知った日の翌日から起算して3か月以内(*4)に、厚生労働大臣へ審査請求ができます(行審法4条、18条)
(*4)正当な理由があるときを除きます。また、処分を知らなくとも、処分があった日の翌日から起算して1年を経過したときは審査請求をできませんが、この場合も、正当な理由があるときを除きます。
国保、後期高齢者医療、介護の不服申立ての手続は、社審法ではなく各法律に規定されています。
- いずれも、各都道府県に置かれた〇〇審査会への審査請求(一審制)を必要とするため、審査請求前置主義が適用されます。
- いずれも、保険料その他徴収金にも審査請求前置主義が適用されます。
- いずれも、審査請求は、処分を知った日の翌日から起算して3か月以内(正当な理由ありと疎明したときを除く)に、文書又は口頭で行えます。
国民健康保険法
- 保険給付に関する処分又は保険料その他国民健康保険法の規定による徴収金に関する処分に不服がある者は、国民健康保険審査会に審査請求をすることができる(国民健康保険法91条1項)
- ①の審査請求は、時効の完成猶予及び更新に関しては、裁判上の請求とみなす(同条2項)
- ①に規定する処分の取消しの訴えは、当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ、提起することができない(同法103条)
- 国民健康保険審査会は、各都道府県に置く(同法92条)
- 国民健康保険審査会は、被保険者を代表する委員、保険者を代表する委員及び公益を代表する委員各3人をもって組織する(同法93条)
高齢者医療確保法
- 後期高齢者医療給付に関する処分又は保険料その他後期高齢者医制度による徴収金(市町村及び後期高齢者医療広域連合が徴収するものに限る)に関する処分に不服がある者は、後期高齢者医療審査会に審査請求をすることができる(高齢者医療確保128条1項)
- ①の審査請求は、時効の完成猶予及び更新に関しては、裁判上の請求とみなす(同条2項)
- ①に規定する処分の取消しの訴えは、当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ、提起することができない(同法130条において準用する国民健康保険法103条)
- 後期高齢者医療審査会は、各都道府県に置く(高齢者医療確保法129条)
- 後期高齢者医療審査会は、被保険者を代表する委員、後期高齢者医療広域連合を代表する委員及び公益を代表する委員各3人をもって組織する(同法130条において準用する国民健康保険法93条)
介護保険法
- 保険給付に関する処分(被保険者証の交付の請求に関する処分及び要介護認定又は要支援認定に関する処分を含む)又は保険料その他介護保険法の規定による徴収金(財政安定化基金拠出金、介護給付費・地域支援事業支援納付金及び当該納付金に係る延滞金を除く)に関する処分に不服がある者は、介護保険審査会に審査請求をすることができる(介護保険法183条1項)
- ①の審査請求は、時効の完成猶予及び更新に関しては、裁判上の請求とみなす(同条2項)
- ①に規定する処分の取消しの訴えは、当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ、提起することができない(同法196条)
- 介護保険審査会は、各都道府県に置く(同法184条)
- 介護保険審査会は、被保険者を代表する委員3人、市町村を代表する委員3人、公益を代表する委員3人以上(条例で定める員数)をもって組織する(同法185条)
ちなみに、要介護・要支援の認定そのもの(審査判定業務といいます)は、市町村に置かれた介護認定審査会(*5)が行います(同法14条)
(*5)厳密には、市町村の委託を受けて審査判定業務を行う都道府県には、「都道府県介護認定審査会」が置かれます(同法38条)
(参考資料等)
厚生労働省|厚生労働省法令等データベースサービスより|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kensaku/index.html
- 健康保険法
- 社会保険審査官及び社会保険審査会法
- 社会保険審査官及び社会保険審査会法施行規則等の一部を改正する省令(令和8年4月28日厚生労働省令第88号)
- 昭和35年11月7日保発69号(社会保険審査官及び社会保険審査会法の一部を改正する法律等の施行について)
- 船員保険法
- 厚生年金保険法
- 国民年金法
- 国民健康保険法
- 高齢者の医療の確保に関する法律
- 介護保険法

