この記事では、健康保険法の雑則(無料の証明、質問検査等)を解説しています。
記事中の略語は、それぞれ次の意味で使用しています。
- 法 ⇒ 健康保険法
- 則 ⇒ 健康保険法施行規則
- 保険者 ⇒ 協会、各健康保険組合
- 機構 ⇒ 日本年金機構
当記事は、条文等の趣旨に反するような極端な意訳には注意しておりますが、厳密な表現と異なる部分もございます。
詳しくは免責事項をご確認ください。
目次 非表示
時効
保険料等の徴収又は還付についての時効は、こちらで解説しています。
保険給付を受ける権利についての時効は、こちらで解説しています。
印紙税の非課税、無料の証明

- 健康保険に関する書類には、印紙税を課さない(法195条)
- 市町村長は、保険者又は保険給付を受けるべき者に対して、当該市町村(特別区を含む)の条例により、被保険者又は被保険者であった者の戸籍に関し、無料で証明を行うことができる(法196条1項)
- ②の規定は、被扶養者に係る保険給付を行う場合においては、被扶養者又は被扶養者であった者の戸籍について準用する(法196条2項)
②の市町村長には、特別区の区長を含みます。また、(政令)指定都市では、区長又は総合区長となります(法196条1項)
なお、②及び③は、市町村長が無料で証明できる旨の規定です。
労基法111条(無料証明)のように、労働者(又は使用者)側から無料で証明を「請求することができる」ではありません。
また、戸籍に関する無料の証明は、戸籍全部(個人)事項証明書の交付とは限りません。
実務においては、市町村(特別区を含む)が②③の無料証明を行っているか、行っている場合はその方法を事前に確認してください。
(社労士試験の勉強としては参考程度でお願いします)
次の文書は、法195条により印紙税が非課税となる「健康保険に関する書類」に含まれません(印紙税法基本通達 別表第1 非課税文書)
- 保険施設事業の実施に関する文書
- 保健事業及び福祉事業(法150条)の施設の用に供する不動産等の取得等に関する文書
- 組合又は連合会の事務所等の用に供するための不動産の取得等に関する文書
質問検査、報告の求め
つづいて、厚生労働大臣による質問検査等の権限を解説します。
健康保険法に規定する厚生労働大臣の権限(*1)は、地方厚生局長(更に地方厚生支局長)に委任できます(法205条)
(*1)滞納処分等その他の処分の権限を財務大臣に委任した場合において、厚生労働大臣が財務大臣から当該処分等の結果の報告を受ける権限を除く。
(権限の委任の範囲は膨大になるため省略します)

「保険給付を受ける者等」に対する質問検査は、こちらで解説しています。
厚生労働大臣
- 厚生労働大臣は、被保険者の資格、標準報酬(標準報酬月額及び標準賞与額をいう。以下同じ)、保険料又は保険給付に関して必要があると認めるときは、事業主に対し、文書その他の物件の提出若しくは提示を命じ、又は当該職員をして事業所に立ち入って関係者に質問し、若しくは帳簿書類その他の物件を検査させることができる(法198条1項)
- ①による権限は、地方厚生局長に委任する(則159条1項10号)。また、その権限のうち地方厚生支局の管轄区域に係るものは、地方厚生支局長に委任する(則159条2項)
- ただし、地方厚生局長に委任した権限は厚生労働大臣が、地方厚生支局長に委任した権限は地方厚生局長が、それぞれ自ら権限を行うことを妨げない(則159条1項ただし書、2項ただし書)
この記事では、①による命令、質問、検査を「事業主に対する質問検査等」と表記しています。
「協会管掌の事業主」に対する質問検査は、適用・徴収は機構、保険給付は協会が担当します。
機構
- 事業主に対する質問検査等(健康保険組合に係る場合を除く。保険給付を除く)の権限に係る事務は、機構に行わせる。ただし、当該権限は、厚生労働大臣が自ら行うことを妨げない(法204条1項19号、法204条の5第2項)
- 機構は、上記の事務を行う場合には、あらかじめ、厚生労働大臣の認可を受けなければならない(法204条の5第1項)
協会
- 事業主に対する質問検査等(健康保険組合に係る場合を除く。保険給付に関するものに限る)の権限に係る事務は、協会に行わせる。ただし、当該権限は、厚生労働大臣が自ら行うことを妨げない(法204条の7第1項)
- 協会は、上記の事務を行う場合には、あらかじめ、厚生労働大臣の認可を受けなければならない(法204条の8第1項)
罰則
事業主が、正当な理由がなくて、事業主に対する質問検査等に違反した場合(求められても文書を提出しない等)には、6か月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金の対象となります(法208条5号)
また、事業主以外の者が、正当な理由がなくて、職員(機構及び協会の職員を含む)の質問に対して、答弁せず、若しくは虚偽の答弁をし、又は検査を拒み、妨げ、若しくは忌避したときは、6か月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金の対象です(法209条)

厚生労働大臣は、被保険者の資格、標準報酬又は保険料に関し必要があると認めるときは、次の①又は②ができます(法199条1項)
- 官公署に対し、事業所の名称、所在地その他必要な資料の提供を求めること。
- 銀行、信託会社その他の機関に対し、被保険者又は被保険者であると認められる者の収入の状況その他の事項について報告を求めること。
①及び②の権限に係る事務は、機構に委任されています(法204条1項20号)

厚生労働大臣は、保険医療機関等の指定または指定訪問看護事業者の指定に関し必要があると認めるときは、当該指定に係る開設者若しくは管理者又は申請者の社会保険料の納付状況につき、当該社会保険料を徴収する者に対し、必要な書類の閲覧又は資料の提供を求めることができます(法199条2項)
上記の権限は、地方厚生局長に委任されています(則159条1項10号の2)
また、その権限のうち地方厚生支局の管轄区域に係るものは、地方厚生支局長に委任されています(則159条2項)
ちなみに、資料の提供の求めだけでなく、保険医療機関等の指定、指定訪問看護事業者の指定いずれも、指定の権限そのものが地方厚生(支)局長に委任されています(則159条1項5号の2、6号の2)
保険医療機関等の指定はこちら、指定訪問看護事業者の指定はこちらで解説しています。
- 厚生労働大臣は、共済組合について、必要があると認めるときは、その事業及び財産に関する報告を徴し、又はその運営に関する指示をすることができる(法201条)
- この法律の適用については、日本私立学校振興・共済事業団は共済組合と、私立学校教職員共済法の規定による私立学校教職員共済制度の加入者は共済組合の組合員とみなす(法附則6条)
(この権限は委任されていません)
資格、標準報酬に関する情報の提供

最後に、協会管掌の健康保険における相互の連携を解説します。
(以降は、協会管掌の健康保険を前提とした解説です)
- 協会管掌の保険給付は協会が担当します。
- 協会管掌の適用・徴収の業務(任意継続被保険者に係る業務を除く)は厚生労働大臣が担当します。ただし、その事務の多くは機構へ委任又は委託されています。
(機構への事務の委任・委託の範囲は膨大になるため省略します)
厚生労働大臣(厚生労働省)、協会、機構は、互いに独立した組織です。
とはいえ、協会の保険給付には、例えば、被保険者又は被扶養者の資格の有無、標準報酬月額、年金給付等の支給状況(傷病手当金との調整)、日雇特例被保険者手帳の交付状況など、機構が行う事務に関する情報が必要になります。
そこで、機構から厚生労働大臣へ、厚生労働大臣から協会へという流れで、情報が提供されています。
機構から厚生労働大臣
- 機構は、厚生労働大臣に対し、被保険者の資格に関する事項、標準報酬に関する事項その他厚生労働大臣の権限の行使に関して必要な情報の提供を行うものとする(法205条の3第1項)
- 厚生労働大臣及び機構は、協会が管掌する健康保険の事業が、適正かつ円滑に行われるよう、必要な情報交換を行うことその他相互の密接な連携の確保に努めるものとする(法205条の3第2項)
機構は、厚生労働大臣の求めに応じて、速やかに、①の情報を提供します(則159条の6)
厚生労働大臣から協会
- 厚生労働大臣は、協会に対し、被保険者の資格に関する事項、標準報酬に関する事項その他協会の業務の実施に関して必要な情報の提供を行うものとする(法51条の2)
- 厚生労働大臣及び協会は、協会が管掌する健康保険の事業が、適正かつ円滑に行われるよう、必要な情報交換を行う等、相互の緊密な連携の確保に努めるものとする(法199条の2)
①の対象となる情報としては、被保険者の資格取得届や喪失届、被扶養者(異動)届、資格確認書の訂正(氏名変更届などに添付)、報酬月額に係る届出(算定、月変、育休・産休月変)に関する事項などがあります(則2条の6)
ちなみに、任意継続被保険者の資格取得の申出については、(一般被保険者の)資格喪失の事実を確認できれば、①による情報提供が行われる前でも、資格確認書を交付して差し支えない とされています(同旨 令和元年7月5日保保発0705第1号)
資格喪失の事実は、退職した事実が証明された書類(退職証明書、雇用保険被保険者離職票など)の写しにより確認します(前掲通達)
任継の資格取得の申出書に退職証明書のコピーなどを添付すると、厚生労働大臣(機構)からの情報提供を待つよりも手続きに要する日数を短縮できる という趣旨です(添付するかは任意です)
(実際の任継の資格取得申出書には、事業主から資格喪失の証明を受ける欄があります。事業主から証明を受けられる場合は退職証明書のコピーは必要ありません。また、電子申請においても当該証明欄のアップロードで足ります)
解説は以上です。
ちなみに、銀行、信託会社その他の機関に対する報告の求めは、令和7年6月20日に施行されました。
過去問と合わせて復習してみてください。
(参考資料等)
厚生労働省|厚生労働省法令等データベースサービスより|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kensaku/index.html
- 健康保険法
- 令和元年7月5日保保発0705第1号(任意継続被保険者に係る被保険者証の交付について〔健康保険法〕)

