この記事では、社労士試験の学習者を想定して、健康保険法における罰則を解説しています。
記事中の略語は、それぞれ次の意味で使用しています。
- 法、この法律 ⇒ 健康保険法
- 協会 ⇒ 全国健康保険協会
- 保険者 ⇒ 協会、各健康保険組合
- 機構 ⇒ 日本年金機構
当記事は、条文等の趣旨に反するような極端な意訳には注意しておりますが、厳密な表現と異なる部分もございます。
詳しくは免責事項をご確認ください。
拘禁刑、罰金
はじめに、拘禁刑又は罰金の定めです。
(過料は後述します)
規定そのものは、e-Govなどでご確認ください。
法207条の2|1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金
協会の役職員、協会の運営委員会の委員、又は健康保険組合の役職員が、それぞれの秘密保持義務(法7条の37第1項、2項、22条の2)に違反して秘密を漏らしたときは、法207条の2の対象です。
なお、健康保険組合の理事長が事業所の人事執行役員となっている場合において、当該理事長が事業所の人事業務に健康保険組合が保有する被保険者の病歴等の情報を活用することは、健康保険組合の役職員としての秘密保持義務への違反となり法207条の2の罰則を受ける可能性があります(令和5年6月15日 健康保険組合あて事務連絡)
法207条の3|1年以下の拘禁刑若しくは50万円以下の罰金、又はこれの併科
下記の場合、その違反行為をした者は法207条の3の対象です。
- 匿名診療等関連情報の利用に関して知り得た当該情報の内容をみだりに他人に知らせ、又は不当な目的に利用した。
- 匿名診療等関連情報利用者が、厚生労働大臣からの是正命令に違反した。
なお、法207条の3の罪は、日本国外において同条の罪を犯した者にも適用されます(法213条の4)
(匿名診療等関連情報の解説はこちらをご参照ください)
法207条の4|1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金
被保険者等記号・番号等の利用制限について厚生労働大臣から勧告を受け、更に当該勧告に従うべき命令を受けたにもかかわらず、当該命令(法194条の2第6項)に違反したときは、その違反行為をした者は法207条の4の対象です。
(被保険者等記号・番号等の利用制限の解説はこちらをご参照ください)
法208条|6か月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金
事業主が、正当な理由がなくて次のいずれかに該当するときは、法208条の対象です。
- 被保険者の資格の取得及び喪失並びに報酬月額及び賞与額に関する事項(法48条)について、届出をせず、又は虚偽の届出をした。
- 日雇特例被保険者の賞与額に関する事項(法168条2項)について、届出をせず、又は虚偽の届出をした。
- 被保険者又は被保険者であった者への通知(法49条2項、50条2項)をしない。
- 督促状に指定する期限までに保険料を納付しない。
- 標準賃金日額に係る保険料(健康保険印紙による保険料)を納付しない。
- 健康保険印紙の受払等に関する帳簿を備え付けない。
- 健康保険印紙の受払等に関する報告せず、又は虚偽の報告をした。
- 被保険者の資格等に関する立入検査等(法198条1項)について、文書その他の物件の提出若しくは提示をせず、又は職員(機構の職員及び協会の職員を含む)の質問に対して、答弁せず、若しくは虚偽の答弁をし、若しくは検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した。
法209条|6か月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金
事業主以外の者が、正当な理由がなくて被保険者の資格等に関する立入検査等(法198条1項)について、職員(機構の職員及び協会の職員を含む)の質問に対して、答弁せず、若しくは虚偽の答弁をし、又は検査を拒み、妨げ、若しくは忌避したときは、法209条の対象です。
法211条|6か月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金
日雇特例被保険者手帳の交付申請をした者が、当該申請に関し虚偽の申請をしたときは、法211条の対象です。
つづいて、50万円以下の罰金、30万円以下の罰金の定めです。
法213条|50万円以下の罰金
健康保険組合又は国民健康保険組合の役員、清算人又は職員が、健康保険印紙の受払等の報告をせず、又は虚偽の報告をしたときは、法213条の対象です。
法213条の2|50万円以下の罰金
匿名診療等関連情報利用者が、厚生労働大臣による立入検査等(法150条の7第1項)について、報告若しくは帳簿書類の提出若しくは提示をせず、若しくは虚偽の報告若しくは虚偽の帳簿書類の提出若しくは提示をし、又は当該職員の質問に対して、答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をし、若しくは検査を拒み、妨げ、若しくは忌避したときは、法213条の2の対象です。
また、下記いずれかに該当する者も、法213条の2の対象です。
(国税徴収の例によるものとされる国税徴収法141条を単に「国税徴収法141条」と表記しています)
- 国税徴収法141条による徴収職員の質問(*1)に対して答弁をせず、又は偽りの陳述をした。
- 国税徴収法141条による検査(*1)を拒み、妨げ、又は忌避した。
- 国税徴収法141条による物件の提示又は提出の要求(*1)に対し、正当な理由がなくこれに応じず、又は偽りの記載若しくは記録をした帳簿書類その他の物件を提示し、若しくは提出した。
(*1)協会又は健康保険組合の職員が行うものを除く。
法213条の3|30万円以下の罰金
被保険者等記号・番号等の利用制限について、厚生労働大臣による立入検査等(法194条の3第1項)を受けた者が、正当な理由がなくて報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は当該職員の質問に対して、答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をし、若しくは検査を拒み、妨げ、若しくは忌避したときは、法213条の3の対象です。
法210条|30万円以下の罰金
被保険者又は被保険者であった者が、厚生労働大臣から保険給付に係る診療等の内容に関し報告等を命ぜられ(法60条2項、149条)、正当な理由がなくてこれに従わず、又は当該職員の質問に対して、正当な理由がなくて答弁せず、若しくは虚偽の答弁をしたときは、法210条の対象です。
法212条|30万円以下の罰金
下記の場合は、法212条の対象です。
- 日雇労働者が、日雇特例被保険者となったときに、日雇特例被保険者手帳の交付申請(法126条1項の申請)をしなかった。
- 日雇特例被保険者が、適用事業所に使用される日に、日雇特例被保険者手帳を事業主に提出しなかった。
法212条の2|30万円以下の罰金
協会の役員又は職員が下記いずれかに該当したときは、法212条の2の対象です。
- 厚生労働大臣による報告の徴収等(法7条の38第1項)について、報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は当該職員の質問に対して、答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をし、若しくは検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した。
- 協会の事業又は財産管理についての厚生労働大臣の命令(法7条の39第1項の命令)に違反した。
- 法人(人格のない社団等を含む。以下同じ)の代表者(人格のない社団等の管理人を含む)又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務又は財産に関して、法207条の3、207条の4、208条、213条の2又は213条の3の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する。
- 人格のない社団等について①の適用がある場合においては、その代表者又は管理人がその訴訟行為につき当該人格のない社団等を代表するほか、法人を被告人又は被疑者とする場合の刑事訴訟に関する法律の規定を準用する。
(①②における人格のない社団等とは、法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものをいいます)
過料
ここからは、過料(行政上の秩序罰)の定めです。
過料の対象者を下記の区分で整理しています。
- 事業主等
- 協会
- 健康保険組合
- 機構
下記の場合は、10万円以下の過料の対象です。
- 医師、歯科医師、薬剤師若しくは手当を行った者又はこれを使用する者が、厚生労働大臣により(*2)、報告若しくは診療録、帳簿書類その他の物件の提示を命ぜられ、正当な理由がなくてこれに従わず、又は当該職員の質問に対して、正当な理由がなくて答弁せず、若しくは虚偽の答弁をした(法215条)
- 事業主が、保険者(*3)からの法197条1項による報告等の求め(資格の得喪、報酬月額、賞与額以外の事項に関する報告等や法の施行に必要な事務)について、正当な理由がなくて報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、文書の提示をせず、又はこの法律の施行に必要な事務を怠った(法216条)
- 被保険者又は保険給付を受けるべき者が、保険者(*3)からの届出等の求め(法197条2項)について、正当な理由がなくて申出をせず、若しくは虚偽の申出をし、届出をせず、若しくは虚偽の届出をし、又は文書の提出を怠った(法217条)
- 協会でない者が、全国健康保険協会という名称を用いた(法220条)
- 健康保険組合でない者が、健康保険組合という名称を用いた(同条)
- 健康保険組合連合会でない者が、健康保険組合連合会という名称を用いた(同条)
(*2)厚生労働大臣は、保険給付を行うために必要なときは、これらの者に物件の提示等を命じたり、職員に質問させることができます(法60条1項、149条)
(*3)協会管掌において厚生労働大臣が行う業務に関しては、厚生労働大臣です(なお、厚生労働大臣の権限に係る事務は機構に委任されています)
次のいずれかに該当する場合には、その違反行為をした協会の役員は、20万円以下の過料の対象です(法217条の2)
- 政令に違反して登記を怠った。
- 厚生労働大臣の認可を受けなければならない場合(事業計画及び予算、借入金、重要な財産の処分)において、その認可を受けなかった。
- 厚生労働大臣の承認を受けなければならない場合(事業報告書及び決算報告書の提出)において、その承認を受けなかった。
- 財務諸表、事業報告書等若しくは監事及び会計監査人の意見を記載した書面を備え置かず、又は閲覧に供しなかった。
- 法7条の33(余裕金の運用は政令の定めによる)に違反して協会の業務上の余裕金を運用した。
- 役員の報酬の基準、職員の給与の基準について届出をせず、又は虚偽の届出をした。
- 役員の報酬の基準、職員の給与の基準について公表をせず、又は虚偽の公表をした。
- この法律に規定する業務又は他の法律により協会が行うものとされた業務以外の業務を行った。
また、協会が行う立入検査等に係る厚生労働大臣の認可(法204条の8第1項)を受けなかったときは、協会の役員は、20万円以下の過料の対象です(法222条)
健康保険組合又は健康保険組合連合会が次のいずれかに該当したときは、その役員は、20万円以下の過料の対象です(法219条)
- 規約の変更(法16条3項、188条)の届出をせず、若しくは虚偽の届出をした。
- 厚生労働大臣による、事業及び財産の状況に関する報告の徴収等(法29条1項、188条)について、報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は当該職員の質問に対して、答弁せず、若しくは虚偽の答弁をし、若しくは検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した。
- 事業又は財産管理についての厚生労働大臣の命令(法29条1項、188条)に違反した。
法218条|参考
(社労士試験で出題されているため解説します)
健康保険組合の設立を命ぜられた事業主が、正当な理由がなくて厚生労働大臣が指定する期日までに設立の認可を申請しなかったときは、その手続の遅延した期間、その負担すべき保険料額の2倍に相当する金額以下の過料に処する(法218条)
ちなみに、強制設立の要件としての被保険者の人数(法14条の強制設立に係る政令で定める数)は規定されていません。
厚生労働大臣から下記の認可を受けなかった場合には、機構の役員は、20万円以下の過料の対象です(法221条1号)
- 機構が行う滞納処分等に係る認可(法204条の3第1項)
- 機構の徴収職員の認可(法204条の3第2項)
- 滞納処分等実施規程の認可(法204条の4第1項)
- 機構が行う立入検査等に係る認可(法204条の5第1項)
- 機構の収納職員の認可(法204条の6第2項)
上記については「厚生労働大臣の認可を要す」と覚えた方が、試験対策として効果的かもしれません。
ちなみに、滞納処分等実施規程の変更命令(法204条の4第2項)に違反したときも、機構の役員は、20万円以下の過料の対象です(法221条2号)
解説は以上です。
このブログにおける「健康保険法」の解説は、この記事で一段落となります。
長文にお付き合いいただきありがとうございました。
(参考資料等)
厚生労働省|厚生労働省法令等データベースサービスより|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kensaku/index.html
- 健康保険法
- 令和5年6月15日事務連絡(「健康保険組合等における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」を補完する事例集(Q&A))
